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育児介護休業法の改正による就業規則の変更
令和7年の4月と10月に育児介護休業法が改正され、それに伴い就業規則の見直しが必要になります。見直しが必要になる箇所について、一つずつ確認していきましょう。
まずは養育する子が病気などにかかった場合の看護休暇ですが、これまでは小学校就学の始期に達するまでの子が対象となっていましたが、4月からは小学校3年生修了までの子と範囲が拡大されました。
また、病気・けが、予防接種などで看護する場合に看護休暇を取得することができましたが、これに感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式、卒園式も対象に加わりました。
これまで労使協定により継続雇用期間6ヶ月未満の方の子の看護休暇を取得する対象から除外できましたが、この規定がなくなったため勤め始めて6ヶ月未満の方の看護休暇の取得も認める必要があります。
名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」へ変更する必要があります。
労働時間と割増賃金計算の端数処理の注意点(2)
割増賃金の基礎となる時間給の端数処理
時間外労働や休日労働などの割増賃金を計算する場合には、時間給単価に割増率を乗じなければなりません。したがって、時間給の場合はその額、日給制の場合は1日の所定労働時間で除して、時間給単価を算出しなければなりません。
なお、通常は月給制の場合は各月の所定労働日数、所定労働時間数が異なるため、月給額を「1ヵ月平均の所定労働時間数」(年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12月)で除すことになります。この「1ヵ月平均の所定労働時間」の端数を切り上げると、1時間当たりの賃金が少なくなり、労働者にとって不利となるため、端数はそのままにするか、切り捨てて取り扱うこととされてます。
例えば、1日8時間労働で年間休日が120日の場合は次のようになります。
(360-120)÷12×8=163.3333・・・・
このような場合、163時間または163.3時間(そのままでも可)とし、切り上げて164時間や163.4時間にすることはできません。ただし、1時間当たりの賃金額および割増賃金額の1円未満の端数については、事務の簡便化のため50銭未満切り捨て、50銭以上1円未満を1円として処理することは認められています。
また、1ヵ月間における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの割増賃金を計算する際、その総額に1円未満の端数が生じた場合には、50銭未満切り捨て、50銭以上1円未満を1円として処理することも認められています。賃金計算の端数処理については、就業規則または賃金規程で定めて正しく計算しましょう。
労働時間と割増賃金計算の端数処理の注意点
労働時間や賃金計算における端数の処理の誤りから、労働基準監督署の調査で賃金未払いを指摘され、是正勧告されることがあります。労働時間管理や賃金計算がシステム化されている場合は、適法な設計となっているか確認する必要があります。
労働時間の端数処理
①1日単位の労働時間の端数
労働時間は、原則として1分単位で把握しなければなりません。たとえば、始業9時00分、終業18時00分(休憩1時間)の1日8時間労働の場合において、業務終了時刻が18時10分だったときに、15分未満を切り捨てて18時00分とするような処理は違法となります。このような処理をすると1日につき10分、所定労働日数20日とした場合に200分(3時間20分)の時間外労働時間について賃金不払いとなります。ただし、「15分未満は15分」とするなど、残業時間の端数を切り上げて丸めて処理をすることは労働者にとって有利な取り扱いになるため認められています。
また、遅刻や早退の時間数の端数処理をする場合に、5分、10分の遅刻・早退を15分または30分単位で切り上げて処理することは実際の不就労時間より多く控除することになるので、これも違法で賃金不払いとなります。ただし、5分や10分の遅刻・早退について15分未満または30分未満は切り捨て、遅刻・早退0分とする端数処理は労働者に有利となるため問題ありません。
②1ヵ月単位の労働時間の端数処理
賃金を計算する場合、一賃金支払期間における1ヵ月の時間外労働、休日労働および深夜労働に係る端数処理については、当該一賃金支払期間の1日単位の分単位での実労働時間の合計、または①の端数処理による労働時間の合計によることになります。ただし、合計した労働時間数に1時間未満の端数がある場合には30分未満の端数を切り捨て、30分以上1時間未満の端数がある場合には切り上げて1時間として計算することは認められています(昭和63.3.14基発150号)。
育児時短就業給付金の創設(3)
育児時短就業給付金の支給額は原則、時短勤務中の各月に支払われた賃金の10%になります。時短勤務前の1か月の給与が30万円で、時短勤務で25万円になった場合は、25万円の10%、2万5千円が支給されます。
1か月の給与が時短勤務前の90%を下回らない場合は、従前の給与の額を上回らないように調整された金額が支給されます。例えば先ほどの例の場合、時短勤務で28万円になった場合は約1万8千円が支給され、1か月の給与が29万8千円となり、時短勤務前の給与に近い額となります。
また、上限額と下限額もあります。支給額が2295円以下の場合は支給がされず、支給対象月に支払われた給与と支給額の合計が45万9千円を超える場合は、そこまでの金額しか支払われません。1か月の給与が60万円の方が時短勤務で賃金が80%になった場合、48万円となり、支給限度額を超えるため、支給の対象とはなりません。
育児時短就業給付金の創設(2)
育児時短就業給付金の支給対象となる時短就業とは、「2歳に満たない子を養育するために、被保険者からの申し出に基づき、事業主が講じた1週間当たりの所定労働時間を短縮する措置」を言います。
これには1日当たりの労働時間を短縮した場合に限らず、週5日勤務から週4日勤務に短縮するなど1週間当たりの所定日数を変更した場合や、正社員からパートタイム労働者に転換した場合なども含まれます。
フレックスタイム制や変形労働時間制で働かれている方も、清算期間・対象期間の総労働時間を短縮して就業するときは対象となります。シフト制で勤務される方も、1週間当たりの平均労働時間が短縮されていることを確認できる場合は対象となります。
育児時短就業給付金の創設
2025年4月から2歳に満たない子を養育するために時短勤務をし、時短勤務前と比較して賃金が低下するなどの要件を満たす場合、給付金が支給されるようになります。
まずは受給資格ですが、対象となるのは雇用保険の被保険者で2歳未満の子を養育するために、1週間当たりの所定労働時間を短縮して就業する方です。役員や週の所定労働時間が20時間未満であるとして雇用保険に加入していない方は、この給付金の対象となりません。
また、育児休業給付の受給資格と同じように、原則育児休業もしくは育児時短勤務の開始前の2年間に11日以上の勤務等をした月が12カ月以上必要です。育児休業給付を受けている方は受給資格を満たしていますが、育児休業を取得せずに時短勤務のみをする方は要件を満たすか注意が必要です。
カスハラ条例施行、国も立法化(2)
企業の対応については「速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申し入れ、その他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定。従業員を守るために「現場責任者等が対応を代わった上で、顧客等から就業者を引き離す、あるいは、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら対応するなど、就業者への被害がこれ以上継続しないようにすることが求められる」としています。
さらに
①カスハラ対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
➁カスハラ禁止の方針の明確化と周知 ③相談窓口の設置
④適切な相談対応の実施
⑤相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知
⑥相談を理由とした不利益な取り扱いの禁止の周知
⑦現場での初期対応の方法や手順(マニュアル)の作成
を挙げています。
カスハラ条例施行、国も立法化
悪質なクレームなどカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に向けた自治体や国の動きが加速しています。東京都の「カスハラ防止条例」が4月1日から施行されるとともに、政府はカスハラについて雇用管理上の措置義務を盛り込んだ改正労働施策総合推進法を通常国会に提出する予定です。
セクハラ、パワハラ等は主な行為者が職場内に限定されますが、カスハラの加害者は外部の第三者である点に特徴があります。東京都は条例第4条で「何人も、あらゆる場において、カスハラを行ってはならない」とカスハラ禁止を規定。カスハラの定義を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」としています。
つまり、①顧客等から就業者 ➁著しい迷惑行為 ③就業環境を害する の3つの要素をすべて満たすものがカスハラです。著しい迷惑行為とは「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」と規定しています。
退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて(2)
他にも、労働者の退職時に未消化の年次有給休暇がある場合にそれを買い取ることは認められています。これは、労働者の退職によって年次有給休暇の請求権が消滅してしまうことによるものです。業務の引き継ぎなどのために未消化となる年次有給休暇の日数分だけ労働者の退職日を変更することが可能であれば、退職日をずらしてもらうという方法もありますが、労働者の事情で退職日を変更できないこともあるでしょう。そのような場合は業務の引き継ぎを優先して残日数分の買い取りに応じることは合理的です。
退職勧奨や希望退職募集などにより退職予定日があらかじめ決まっているような場合は、残務整理などを優先しなければならず、年次有給休暇を消化しきれないこともあるでしょう。その場合に、それを買い取ることは、労働者に不利益になるものではなく問題ありません。退職勧奨や希望退職などはあくまで会社から退職に合意を求めているものであり、退職合意に至る過程で残務処理などを優先した場合は、退職日まで消化しきれなかった年次有給休暇を買い取ることは労働者の不利益を減ずるための条件となるからです。
ただし、このケースでも、既に業務の引き継ぎや残務整理も完了し、退職予定日までに取り組んでもらう仕事が特段ないような場合は、未消化の年次有給休暇の取得を促進し、再就職活動に利用してもらうなどの対応をすべきです。
なお、時効となった年次有給休暇の買い取りおよび前述の退職に伴う年次有給休暇の買い取りなどは、例外的に買い取りが「認められている」ものであり、「買い取らなければならない」という会社に対する買い取り義務が法的に求められているものではありません。したがって、退職予定の労働者に対して、業務の引き継ぎや残務整理が完了しているにもかかわらず、出勤を求めたりすること、または退職予定の労働者から退職予定日まで出勤する代わりとして年次有給休暇の買い取り要求に応じることは、年次有給休暇の取得を阻害することになり違法となる可能性もあります。したがって、このような場合でも退職予定日までの取得促進を図るべきです。
退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労の回復を図ることを目的として、所定労働日の任意の労働日について賃金を失うことなく労働が免除される休暇です。
労働基準法上、使用者にはその使用する労働者の勤続年数に応じて一定の日数の年次有給休暇を与える義務があります。年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならず、取得を抑制したりすることは禁止されています。
行政通達においても「年休の買上げの予約をし、これに基づいて労働基準法39条の規定により支給し得る年休の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条の違反である」(昭30.11.30基収第47178号)とされています。したがって、使用者は労働者から年次有給休暇の買い取りを要求されても買い取る義務はないことになります。
ただし、例外的に年次有給休暇の買い取りが認められる場合があります。例えば、年次有給休暇の請求権には2年の時効があり、2年を経過すると請求権が消滅します。したがって、時効によって消滅した日数を事後的に買い取ることは労働者に不利益にならないとして認められています。
しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることをルール化することは、買い取りを目的として取得しない労働者が出てくる可能性もあるので避けるべきです。