カスハラ条例施行、国も立法化

 悪質なクレームなどカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に向けた自治体や国の動きが加速しています。東京都の「カスハラ防止条例」が4月1日から施行されるとともに、政府はカスハラについて雇用管理上の措置義務を盛り込んだ改正労働施策総合推進法を通常国会に提出する予定です。

 セクハラ、パワハラ等は主な行為者が職場内に限定されますが、カスハラの加害者は外部の第三者である点に特徴があります。東京都は条例第4条で「何人も、あらゆる場において、カスハラを行ってはならない」とカスハラ禁止を規定。カスハラの定義を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」としています。

 つまり、①顧客等から就業者 ➁著しい迷惑行為 ③就業環境を害する の3つの要素をすべて満たすものがカスハラです。著しい迷惑行為とは「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」と規定しています。

退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて(2)

 他にも、労働者の退職時に未消化の年次有給休暇がある場合にそれを買い取ることは認められています。これは、労働者の退職によって年次有給休暇の請求権が消滅してしまうことによるものです。業務の引き継ぎなどのために未消化となる年次有給休暇の日数分だけ労働者の退職日を変更することが可能であれば、退職日をずらしてもらうという方法もありますが、労働者の事情で退職日を変更できないこともあるでしょう。そのような場合は業務の引き継ぎを優先して残日数分の買い取りに応じることは合理的です。

 退職勧奨や希望退職募集などにより退職予定日があらかじめ決まっているような場合は、残務整理などを優先しなければならず、年次有給休暇を消化しきれないこともあるでしょう。その場合に、それを買い取ることは、労働者に不利益になるものではなく問題ありません。退職勧奨や希望退職などはあくまで会社から退職に合意を求めているものであり、退職合意に至る過程で残務処理などを優先した場合は、退職日まで消化しきれなかった年次有給休暇を買い取ることは労働者の不利益を減ずるための条件となるからです。

 ただし、このケースでも、既に業務の引き継ぎや残務整理も完了し、退職予定日までに取り組んでもらう仕事が特段ないような場合は、未消化の年次有給休暇の取得を促進し、再就職活動に利用してもらうなどの対応をすべきです。

 なお、時効となった年次有給休暇の買い取りおよび前述の退職に伴う年次有給休暇の買い取りなどは、例外的に買い取りが「認められている」ものであり、「買い取らなければならない」という会社に対する買い取り義務が法的に求められているものではありません。したがって、退職予定の労働者に対して、業務の引き継ぎや残務整理が完了しているにもかかわらず、出勤を求めたりすること、または退職予定の労働者から退職予定日まで出勤する代わりとして年次有給休暇の買い取り要求に応じることは、年次有給休暇の取得を阻害することになり違法となる可能性もあります。したがって、このような場合でも退職予定日までの取得促進を図るべきです。

退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて

 年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労の回復を図ることを目的として、所定労働日の任意の労働日について賃金を失うことなく労働が免除される休暇です。

 労働基準法上、使用者にはその使用する労働者の勤続年数に応じて一定の日数の年次有給休暇を与える義務があります。年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならず、取得を抑制したりすることは禁止されています。

 行政通達においても「年休の買上げの予約をし、これに基づいて労働基準法39条の規定により支給し得る年休の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条の違反である」(昭30.11.30基収第47178号)とされています。したがって、使用者は労働者から年次有給休暇の買い取りを要求されても買い取る義務はないことになります。

 ただし、例外的に年次有給休暇の買い取りが認められる場合があります。例えば、年次有給休暇の請求権には2年の時効があり、2年を経過すると請求権が消滅します。したがって、時効によって消滅した日数を事後的に買い取ることは労働者に不利益にならないとして認められています。

 しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることをルール化することは、買い取りを目的として取得しない労働者が出てくる可能性もあるので避けるべきです。

 

自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点(2)

 次に、自然災害時の会社の休業の際に、従業員に対して年次有給休暇の取得を命ずることができるのかについてですが、例えば、台風の直撃を受ける日を休業にしても業務上の支障がない場合、従業員に年次有給休暇取得を奨励することはできます。しかし、年次有給休暇を取得するか否かはあくまで従業員の判断であり、会社がそれを強制することはできません。なお、会社の休業に伴い労働基準法上の休業手当ではなく、賃金の全額を得るために従業員自らの判断で年次有給休暇を取得することは可能であり、会社はそれを拒むことはできません。したがって、会社として年次有給休暇の取得を前提に自宅待機を命ずることはできず、単に年次有給休暇の取得を奨励する程度にとどめておくことになります。

 ところで、自然災害等による公共交通機関の運休等により出勤できない従業員への対応ですが、会社が営業しているのであれば、欠勤として取り扱うかまたは年次有給休暇の取得とするかは従業員の選択によります。このとき、時間を要しても迂回するなどして何とか出勤できる状況で、なおかつ出勤が可能であるにもかかわらず会社が休むことを命じた場合には、休業手当の支払い義務が生じることになります。したがってこのような場合に休むかどうかの判断は従業員の判断に任せて、年次有給休暇の取得を促すべきでしょう。

自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点

 会社は、労働契約法上、その使用する従業員に対して、生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています(第5条)。自然災害だからといって、使用者としての安全配慮義務が免除されるわけではありません。昨今、多発する台風や地震等の自然災害を想定すれば、自然災害発生による非常時において出勤、退勤、休業等の勤務体制を事前に検討しておくことは、従業員の安全確保のために必要なことです。

 台風による強風や豪雨、地震などの災害が発生することが十分予測される場合、または発生したときは、従業員の通勤は普段よりも危険な状態となり、災害や事故に巻き込まれることは十分にあり得ます。万一の場合には、通勤災害として労災認定の対象となり、労災保険から必要な保険給付が行われますが、状況によっては使用者としての安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

 地震の場合は、その発生が予測しにくいですが、台風などはニュースやインターネット情報などである程度の進路予測がつきます。したがって、事前に出退勤のあり方や休みとするか否かの判断、危険回避のための指示は十分可能でしょう。

 会社には、従業員に対して労働契約上の「業務命令権」があり、自然災害が起きた際に出勤とするか自宅待機とするかの従業員への指示は会社の判断によります。自宅待機とは、会社が従業員に対して、業務命令として自宅での待機を命じることです。会社が台風の接近などを予測して従業員に対して、従業員の安全のために事前に自宅待機を命じる場合には、就業規則などに「会社の責めに帰すべき事由により休業させた場合は、労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%)を支払う」旨を定めておくことで、それによることができます。しかし、何ら定めがなく、自宅待機を命じた場合、労働者は原則として、民法536条第2項により賃金の全額請求も可能となります。なお、自然災害の発生によって会社や工場などが直接被害を受けたり、停電したりして自宅待機等をさせざるを得ない場合もあります。このような場合は、不可抗力による休業となり、使用者に責任はないので休業手当を支払う必要はありません。

 

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし(3)

 会社が労災の支給決定の取り消しを求めた本件に対し、最高裁判所は事業主は労災支給処分によって法律上保護された利益を侵害された「法律上の利益を有する者」に当たらないとして、訴訟を起こす資格である「原告適格」を有しないと判断しました。

 「労働保険料の額は申告または保険料認定処分のときに決定することができれば足り、労災支給処分によってその基礎となる法律関係を確定しておくべき必要性は見出し難い」と述べ、「労災保険給付のうち客観的に支給要件を満たさない額は、事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎とはならない」としています。

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし(2)

 会社が労災保険給付の決定の取消処分を求めて訴訟を起こした本件に対し、最高裁判所は訴訟を起こす資格(原告適格)がないとする判断を示しました。

 判断軸として、処分の取り消しを求める場合の「法律上の利益を有する者」とは、「労災支給処分に基づく労災保険給付の額が当然に事業主の納付すべき労働保険料の額の決定に影響を及ぼすこととなるか否かが問題となる」ことを示します。その上で労災保険法は、労災保険給付の支給または不支給の判断をその請求した被災労働者等に対する行政処分をもって行うが、「これは労災保険給付に係る多数の法律関係を早期に確定するとともに、被災労働者等の権利利益の実効的な救済を図る趣旨に出たものであって、事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎となる法律関係まで早期に確定しようとするものとは解されない」と述べています。

 また、労災保険料率については、事業ごとの労災保険給付の額に応じ、メリット収支率を介して増減し得るものとしているが「事業主間の公平を図るとともに、事業主による災害防止の努力を促進する趣旨のものであるところ、客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額を事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎とすることは趣旨に反する」と言っています。

 以上を踏まえた最高裁判所の結論を次回に確認します。

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし

 本件は札幌中央労働基準監督署が財団の従業員に、労災保険法に基づき業務に起因して疾病を罹患したことを受けて療養補償給付等の支給決定したことに対し、処分の取り消しを求めた事案です。

 財団側はこの支給決定によって労働保険の保険料が増額される恐れがあることから、処分取り消しを求める訴訟を提起できる、即ち原告適格があると主張しました。

 1審判決では原告適格を否定しましたが、原審判決では労災保険の支給決定によってメリット収支率が大きくなり、納付すべき労働保険料が増額されるおそれがあるとし、「事業主は、労災支給処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者として」原告適格を認定しました。

 次回以降にこれを翻した最高裁の判断を確認していきます。

育休中の同僚の代替支援助成企業を拡大

 厚生労働省は育児休業中の同僚をフォローした社員を支援するための中小企業への助成金の対象を2025年度から拡大すると報じられました。2024年1月から始まった同制度は、同僚社員へ追加手当などを支給する場合にかかる費用を補助するものです。

 これまでの制度では資本金に応じて小売業では50人以下、サービス・卸売業では100人以下の中小企業が対象でした。25年度からは全ての業種で「従業員300人以下」の企業も対象になります。

 助成要件は、育休中の社員や育児のため短時間勤務をする社員の業務を代替した同僚に対して、負荷の増加に伴う追加手当を支払う場合などに支援策を適用するものであることです。育休中の社員向けでは社会保険労務士の採用など労務体制整備にかかる費用を5万円、同僚に支援する業務代替手当の3/4を国が負担し、手当の支給上限は月10万円としています。

 例えば5人の部署で一人が育休を取得した場合、残る4人に業務代替手当を毎月4万円支給すると企業の負担が新たに16万円生じます。この16万円のうち3/4にあたる12万円を助成することになります。

若手従業員の離職の原因と防止策を探る(3)

従業員の離職防止策

 従業員の離職防止策を検討するうえで、すぐに対応が難しい課題もあります。それでも、人出不足の中で各社様々な工夫を始めている現状を踏まえ、自社においても従業員の定着、人材流出を防止する施策は検討しなければなりません。

 そのためには、賃金等の処遇改善のほか、働き方を見直し、ワークライフバランスがとりやすい柔軟な働き方を実現するための工夫も必要です。また職場のコミュニケーション活性化を図るために、例えば社内イベントの開催やハラスメント防止研修なども検討すべきでしょう。

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