労働法改正(2)

 労働法の改正で就業場所の変更の範囲を明記することになりましたが、テレワークを導入している場合はその旨の明記も必要になります。

 就業場所に「労働者の自宅」を含めたり、変更の範囲を「会社が定める場所(テレワークを行う場所を含む)」などと記載することを忘れないようにしましょう。

 また、有期契約労働者に対して、更新の上限を設ける場合は「契約期間は通算4年を上限とする」や「契約の更新回数は3回までとする」などの更新の条件を書面で明示する必要があります。

更新の上限を新たに設ける場合や上限を短縮する場合は、その上限を設けたり、上限までの期間を短縮する前に、その理由を労働者に説明する必要があります。

 これは必ずしも書面でなければならないということはありませんが、トラブル防止のため書面での説明が望ましいとされています。

2024年4月からの労働法の改正

 2024年4月1日から労働契約締結時における労働条件の明示事項の追加、有期契約労働者の明示事項の追加による無期転換ルールの見直し、裁量労働制に関する新たなルールなどが施行されます。

また、時間外労働の上限規制の適用猶予となっていた建設事業、自動車運転業務、医師についても適用が始まります。

 労働条件の明示事項については、新たにすべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」が追加され、労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに「雇い入れ直後」の就業場所・業務内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示することになっています。

 変更の範囲を「会社の定める営業所」とすることもできますが、「できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にするとともに、労使間でコミュニケーションをとり、認識を共有することが重要」とも示されていますので、可能な限り具体的に記載するのが良いでしょう。

 

業務改善助成金(7)

 業務改善助成金は生産性向上に資する設備投資等を行う必要がありますが、広告宣伝費などの関連する経費も助成対象とすることができます。

 例として設備投資を行う取り組みに関連する広告宣伝費、改築・備品等購入費が挙げられています。

 助成の対象とならないと明確に示されているのは事務所借料、光熱費、賃金、交際費、消耗品です。

 また、関連する経費は設備投資等の額を限度に助成の対象となります。

 例えば設備投資が50万円にも関わらず、広告宣伝費が70万円の場合、広告宣伝費は50万円までしか助成の対象とならないことに注意してください。

自転車通勤を認める場合のリスクについて

 満員電車の通勤を避けるとともに、通勤時の運動を兼ねることができるとして自転車通勤をする人が増えているようです。

 しかし、自転車で通勤することにリスクはないのでしょうか。

 自転車通勤での交通事故で従業員の命が脅かされることもリスクといえますが、逆に交通事故で加害者となった場合、当事者である従業員だけでなく会社も従業員と連帯して賠償責任を負うことがあります。

 会社の責任が認められるのは使用者責任が認められた場合ですが、使用者責任を認めた裁判例も認めなかった裁判例もあり、基準は事案ごとに異なると考えられます。

 自転車通勤は許可制とし、適正なルールを定めて周知、自転車保険への加入を義務付け保険証書の提出させるなどする方がよいでしょう。

 また、通勤で使用する自転車を業務において使うことを禁じるほか、安全運転に努めるよう社内規定づくりや従業員の教育を行うことが望ましいといえます。

助成金の併給について

 雇用関係の助成金には様々な種類があります。これらを同時に受けることはできるのでしょうか。

 支給要綱に「同一事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない」と定められています。

 したがって、併給できない場合があるということになります。

 どの行為が同一とみなされるかなど判断に難しい問題もありますので、複数の助成金の申請を検討している場合は厚生労働省のホームページにある「雇用関係助成金の併給調整早見ツール」を使って併給できるか確認しましょう。

 

代休・振替休日の正しい運用法(2)

今回は混同しがちな代休と振り替え休日について説明します。

代休の取り扱い
 「代休」とは休日の労働に対する代償として事後に特定の労働日の労働義務を免除し、休みを与える制度です。休日労働に対して代休を与えた場合が、通常の賃金100%を控除することができ、休日割増賃金分35%以上のみ支払い義務が発生します。代休の付与は労働基準法上の義務はなく、取得期限の制限もありません。

 そのため、代休付与を行い割増賃金を支払わない、あるいは割増賃金の支払いはあるが休日が十分に取れないなど、賃金の全額払い違反や長時間労働の温床となる可能性があります。導入する場合は就業規則などに代休を付与する際の条件などを定めて周知しましょう。

 

振替休日の取り扱い
 「振替休日」とは、あらかじめ定められた休日を事前に他の労働日を指定して振り替える制度です。休日の振替となるため、休日割増賃金を支払う必要はありません。ただし、振り替えた休日が週をまたいだ場合や、振替労働をしたことで当該週の実労働時間が週の法定労働時間を超えた場合は、時間外割増賃金の支払いが必要です。

 導入の要件は、就業規則などに振替休日の規定を設け、振替が必要な具体的事由を定めて振り返る日を特定し、振替先の日をできるだけ近接した日とすることや、振替は前日までに通知することを明記し、周知することです。

 

休日の確実な取得に向けて
 休日に労働させる場合は休日申請と同時に、事後に代休または事前に振替日を指定するなど、休日を確保できる仕組みを確立することが大切です。取得に期限を設け、同一賃金計算期間内と定めることも有効です。また、業務に繁閑がある場合は、実態に合わせて休日を設定できる変形労働時間制の導入を検討すると良いでしょう。

 法定休日が未取得の場合や所定の割増賃金が不払いの場合は、労働基準法違反として同条119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。正しい知識を持って、使用者の責務である「労働時間の適正な把握」に取り組むことが重要です。

 

代休・振替休日の正しい運用法(1)

休日の考え方

 労働基準法では労働者に与えなければならない休日が定められており、これを「法定休日」といいます。法定休日の原則は「少なくとも毎週1日」ですが、例外として、月の起算日を明らかにした上で、繁閑に応じて「4週を通じて4日以上」の変形休日とすることも可能です。

 一方、法定休日以外に使用者が任意で定めた休日を「所定休日」といいます。法定休日と所定休日では、割増賃金の取り扱いや法定の割増率が異なります。このため、法定休日の特定は義務付けられていませんが、週休2日制などを採用している場合には、就業規則の休日規定を具体的に定めておくことが望ましいとされています。

 

休日の労働と割増賃金

 法定休日に労働させることを「休日労働」といいます。休日労働を可能とするには36協定を締結した上で労働基準監督署に届け出て、就業規則などに規定し、周知する必要があります。

 また、休日労働には休日割増賃金の支払い義務が発生します。割増率は35%以上、深夜労働(原則午後10時から午前5時)に及んだ場合の割増率は60%(35%+25%)以上となっています。なお、休日労働が法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えた場合でも、時間外労働に対する割増賃金は重複して支払う必要はありません。

一方、所定休日の労働は通常の労働時間として換算されるため、休日割増賃金を支払う義務はありません。ただし、所定休日の労働時間が法定労働時間を超えた場合には割増率25%以上の時間外割増賃金を支払う必要があります。

混同しがちな代休と振り替え休日について、次回解説したいと思います。

業務改善助成金(6)

業務改善助成金についての設備投資について、いくつかの注意点が挙げられます。

 

  • 設備投資等の合計額が10万円以上になること

一つの価格が10万円未満の設備投資等であっても、他の生産性向上に資する設備投資等と合わせて10万円以上となる場合は認められます。

  • 納品は交付決定後であること

交付決定前に納品されたものは対象となりません。発注、デモ機の試験使用は交付決定前でも差し支えありません。

  • 設備の単なる更新は対象とならない

既存の設備より高い能力と有するものを導入する場合や、増設による生産性の向上が認められる場合は対象となります。

 

以上が主な注意点になりますが、この他にも様々な注意点がありますので、設備投資を考えており業務改善助成金の申請を検討する場合は、事前に慎重な準備を行う必要があります。

 

業務改善助成金(5)

業務改善助成金は賃金の引き上げと設備投資等を行う必要があります。

今回からは設備投資について説明していきます。

対象となる設備投資は原則「生産性向上に資する設備投資等」と定められています。

具体的な設備投資の対象は機械装置等の購入費、外部の専門家へのコンサルティング費用などが挙げられています。

ただし、Q&Aには「生産性の向上や労働能率の増進に資する設備投資等であっても、助成対象外となるものもある」とされており、申請を検討する場合はこれから行う設備投資が女性の対象として認められるか慎重に見極める必要があります。

 

社会保険適用拡大に伴う配偶者手当の見直し

配偶者手当の現状

「令和5年職種別民間給与実態調査」(人事院)によれば、家族手当制度があり配偶者に支給している事業所の割合は74.5%。そのうち支給にあたり配偶者の収入による制限を設けている企業が87.4%です。その多くは税制や社会保険法上の扶養控除や配偶者控除の上限額である年収103万円、130万円などに設定されており、これらの金額を超えると家族手当の支給も制限されるのが実態です。

 その結果、配偶者である自分の年収が103万円を超えると配偶者手当が支給されなくなり、また年収が130万円を超えると相手の健康保険の被扶養者から外され、自分で健康保険に加入しなければなりません。社会保険料の負担が増えて世帯収入が減ってしまうため、就業調整をしてしまうことになります。

 これが、「年収の壁」であり、政府は労働力不足の深刻さが増す中、働く意欲のある全ての人が「年収の壁」を意識することなく、その能力を意識することなく、その能力を十分に発揮できる環境整備を図るために「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定。その中で企業に対して廃止を含めた配偶者手当の見直しを進めており、2023年10月20日に「配偶者手当の見直し検討のフローチャート」を公表しました。

 

配偶者手当の見直し手順

 フローチャートによると、その手順は、①賃金制度・人事制度の見直しの検討➡②従業員のニーズを踏まえた案の策定➡③見直し案の決定➡④決定後の新制度の丁寧な説明の4ステップとなっています。

 まず、①で他社事例などを参考にしながら自社に適合した案を検討します。それから②でアンケートや各部門からのヒアリングを行い、従業員のニーズを踏まえた自社案を策定します。そして③で従業員に納得してもらえる見直し案を決定。その過程では、労使間で丁寧な話し合いをすること、賃金原資総額の維持(廃止・調整する場合でも賃金原資の総額が変わらないように調整すること)、必要な経過措置を設けることなどを留意点として挙げています。最後に④で見直しの影響を受ける従業員に対して丁寧な説明を行い、従業員の満足度向上につなげるようにすること、としています。

 なおフローチャートでは従業員に納得感のある手当見直し案として以下の4つを具体例に挙げています。

 

手当見直し内容の具体例

  • 配偶者手当の廃止(縮小)+基本給の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+子供手当の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+資格手当の創設
  • 配偶者手当の収入制限の撤廃

 

見直しに伴う法的留意点

 配偶者手当の見直しは、労働条件の一つである賃金制度の不利益変更ともなります。そのため見直しにあたっては労働契約法第9条・第10条および判例等を踏まえた不利益変更への対応が必要です。配偶者手当の減額や廃止による不利益変更は、従業員の合意がない限り原則として認められません。したがって、前述のステップ②・③・④が重要になります。

 見直す場合は「支給対象者の基本給に吸収する」「全社員の基本給等を原資にする」「他の福利厚生制度で代替する」などの対応が必要となります。現在、配偶者手当の支給を受けており、廃止によって不利益を受ける従業員に対しては、段階的に支給額を減額していくなどの経過措置を取り、労働者の不利益を軽減することも検討すべきです。

 また、従業員の同意を得ることも必要なため、説明会なども検討し、丁寧かつ慎重に進める必要があります。

 

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したがって、実務のことはもちろん、さまざまな種類の人事・労務上の問題のご相談に乗り、解決してまいりました。
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