人材確保に価格転嫁が不可欠

 最低賃金が目役通り50円引き上げられた場合、今年6月時点での求人で最低賃金の時給を下回る求人が全国では39.9%を占め、滋賀と大阪では50.3%、神奈川でも50.1%と5割を超えている府県もあります。中央最低賃金審議会でも使用者側は「中小企業を圧迫するコストは増加する一方で、小規模な企業ほど価格転嫁ができず、賃上げ原資の確保が困難な状況にありまた、企業規模や地域による格差は拡大している」と指摘しています。

 最低賃金の原資を捻出するには、大企業や取引先への価格転嫁ができるかがカギを握ります。政府や中小企業庁はエネルギー価格や原材料価格の高騰を背景に価格転嫁や取引の適正化を呼びかけています。

 一方、労務費等の価格転嫁による賃上げができなければ従業員の離職リスクも高まります。最低賃金引き上げに備えた政府の支援はもちろん必要ですが、価格転嫁に向けた企業努力も欠かせません。

2024年度の最低賃金は50円アップ

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が決めた2024年度の最低賃金の目安に沿って、全国の最低賃金が10月から改定されました。

 通例なら各都道府県をA、B、Cの3ランクに分けた改定の目役を示しますが、今回は各ランクともに一律50円でした。

 全国加重平均は1054円、昨年比5%と大幅に引き上げられました。これにより全都道府県が900円以上となり、1000円以上も8都府県から16都道府県になります。

 最低賃金はこれまでパート・アルバイトなど非正規社員の賃上げの役割を担ってきましたが、中小企業の正社員の領域にまで影響が及んでいます。

健康保険証はどうなるのか?(2)

 マイナンバーカードを持っていない場合、資格確認書というこれまでの保険証と同じようなもので色の違うものが送られることになり、こちらを使うことで健康保険を利用することができます。

 現在加入している健康保険組合や全国健康保険協会で、マイナンバーカードを持っていない方などを対象に資格確認書が送られることになっています。これは特に届け出などをしなくても届く予定です。

 ただし、12月2日以降に健康保険に加入される方でマイナ保険証をお持ちでない場合は、資格確認書の発行が必要ならば行われますが、発効まで時間がかかります。

特に資格取得時に資格確認書の発行を希望しないと選択しないと発効までに2か月以上時間がかかる恐れがあります。資格確認書の発行を希望する場合はきちんと会社のその旨を伝えることが大事です。

健康保険証はどうなるのか?

 令和6年12月2日より従来の保険証が廃止になり、マイナンバーカードを保険証として利用するマイナ保険証に本格的に移行します。

 「これまでの保険証は使えなくなるのか?」や「マイナンバーカードを持っていないけど、どうなるのか?」といった疑問をお持ちの方も多いかと思います。目前に迫った健康保険証の廃止について解説していきたいと思います。

 まず、現在の保険証は令和7年12月1日までは使用できます。ただし、これは健康保険の資格が変わらないことが条件です。

 今までも退職して健康保険の資格を喪失した時はそれまでの保険証を使えなくなりましたが、それと同様に今持っている保険証も資格を喪失すると使えなくなります。資格を喪失しなければ、1年間はこれまで通りに健康保険証を使うことができます。

 では、資格を喪失して新しい資格で健康保険を利用したいが、マイナンバーカードを持っていない場合はどうなるのでしょうか?

 次回はマイナ保険証の代わりとなる資格確認書について説明したいと思います。

育児休業中の傷病休職および傷病手当金の請求について(2)

 次に、育児休業期間中における私傷病による休職についてですが、多くの会社では、就業規則に休職制度を設け、勤続年数に応じて休職期間の長短を定めています。しかし、そもそも私傷病による休職制度は、労働基準法等労働関係法令に基づくものではないため、会社として休職制度を設ける義務はなく、設ける場合でも休職事由、休職期間等については、会社の裁量で決めることができます。なお、休職制度は就業規則の相対的記載事項です。常時使用労働者数10人以上で就業規則を定める会社で当制度を設けた場合には、その休職事由、休職期間等については就業規則に定めて労働者に周知しなければなりません。

 ところで、私傷病による休職制度を設けている会社において、労働者が育児休業期間中に、私傷病による休職事由が発生したり、逆に私傷病による私傷病休職中に出産による産前産後休暇、育児休業、介護休業などが発生したりすることもあります。産前産後休暇、育児休業、介護休業は法律上の休暇・休業制度であり、それを事由として不利益取扱いはできません。

 他方、私傷病休職は会社の就業規則に基づくものなので、就業規則の定めにより休職期間満了までに職場復帰できない場合は、自然退職とすることも可能です。したがって、休職期間中に産前産後休暇、育児休業、介護休業が発生した場合でも、解雇ではなく療養継続中の休職期間満了による退職は問題ありません。

 以上の点を踏まえると、就業規則に私傷病による休職期間を定める場合、産前産後休暇、育児休業、介護休業期間中に私傷病休職事由が発生した場合の取扱いに関しては、重複期間部分について私傷病休職の請求権は発生しないとするのか、それとも重複期間を超えて休職を要する場合、重複期間分を延長するのか、などを定めておく必要があるともいえるでしょう。

 また、私傷病による休職期間中に産前産後休暇、育児休業、介護休業となった場合に、休職期間を中断するのか否かについても同様です。

育児休業中の傷病休職および傷病手当金の請求について

 育児休業中の傷病により傷病手当金と育児休業給付金は併給できるのか、また育児休業中に傷病休職請求はできるのかを考えてみたいと思います。

 雇用保険法の雇用継続給付としての育児休業給付金は、出産後も離職することなく、原則として満1歳未満の子を養育するために育児休業している雇用保険の被保険者の生活保障のために支給される保険給付です。保育所待機等一定の条件に該当した場合には、最長2歳まで育児休業期間が延長され、その間は育児休業給付金の支給期間も延長されます。

 他方、傷病手当金は健康保険の被保険者が私傷病で継続して3日間の待機期間終了後、引き続き働くことができずに休業し、賃金の支払いを受けることができない場合に休業第4日から休業期間中の生活保障のために支給される保険給付です。

 育児休業給付金及び傷病手当金のいずれも、休業期間中の被保険者の生活保障を目的に支給されるものですが、異なる保険制度に基づくものであるため同時に支給を受けることができ、その金額が調整されることはありません。

 厚生労働省の通達(平4.3.31保険発第39号・庁分発第1243号)によれば、「傷病手当金または出産手当金の支給要件に該当すると認められる者については、その者が育児休業期間中であっても傷病手当金又は出産手当金が支給されるものであること。なお、健康保険法の規定による傷病手当金又は出産手当金が支給される場合であって、同一期間内に事業主から育児休業手当等で報酬と認められるものが支給されているときは、傷病手当金又は出産手当金の支給額について調整を図ること」となっています。

能力不足解雇 判例1-3

 この判例のポイントをまとめてみましょう。

 ・該当社員の能力が平均的な水準に達しておらず、外注先から苦情を受けたことなどは認められた。

 ・相対的に劣っているからといって、解雇事由に該当はしない

 ・解雇に該当するかは非常に厳しく判断される。

 ・能力の向上を図る指導が十分でないと判断された。

 

 解雇無効と判断されたこの判例に対し、能力不足を理由に解雇するにはどのようなケースが該当するのか、向上の見込みがないとはどのようなケースになるのかを能力不足解雇が認められた判例を通して確認したいと思います。

 

能力不足解雇 判例その1ー2

 前回見たように会社側としては労働能力や適格性に欠けるとして主張しましたが、裁判所はこれを退けています。

 会社側の「やる気がない、積極性がない、意欲がない、協調性がない」という主張は、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はないとして会社側の主張を認めていません。

 裁判所は就業規則に示されている解雇事由を限定的に捉えており、これに該当するためには「平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としています。

 また、相対的な評価を前提にすることは相対的に考課順位の低い者の解雇を許容することになり、それは認められないとしています。

 向上の余地についても平均的前後の試験結果であった技術教育を除き、教育・指導が行われた形跡がないとして体系的に教育指導を行えば、向上の余地ありとしています。

能力不足解雇 判例その1ー1

 これは単なる能力不足では解雇できないという判例です。

 このケースでは就業規則で解雇について「精神または身体の障害により業務に堪えないとき。」や「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき。」などと定められており、会社側はこの「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして解雇しました

 会社側は様々な主張で該当社員の能力に問題があったとしており、裁判においても以下の点が認められました。

1,人事部採用課に所属していた際、寝坊して飛行機に乗り遅れて会社説明会に行けなかった。

2、人材開発部に所属していた時、研修を円滑に進行させることができなかった

3,企画制作部に所属時、外注先から担当者を代えてほしいと苦情を受け、担当を代えざるを得なかった

4,過去1年間の人事考課で役員の除く全従業員の下位5%に該当する

5,労働能率が平均的な水準に達しているといえない

 このように、裁判所も該当社員の能力を「業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかない」としていますが、なぜ解雇無効と判断したのでしょうか。

 解雇無効と判断された理由を次回見ていきます。

能力不足による解雇についての判例

 厚生労働省の示すモデル就業規則では、「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。」や「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換 できない等就業に適さないとき。」などは解雇することがあるとしています。

 一方で労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。

 勤務態度不良により解雇した場合、どのようなケースでは解雇が有効とされ、どのようなケースでは権利を濫用したものとして無効となっているかを判例に従ってみていきたいと思います。

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