業務改善助成金(7)

業務改善助成金についての設備投資について、いくつかの注意点が挙げられます。

 

  • 設備投資等の合計額が10万円以上になること

一つの価格が10万円未満の設備投資等であっても、他の生産性向上に資する設備投資等と合わせて10万円以上となる場合は認められます。

  • 納品は交付決定後であること

交付決定前に納品されたものは対象となりません。発注、デモ機の試験使用は交付決定前でも差し支えありません。

  • 設備の単なる更新は対象とならない

既存の設備より高い能力と有するものを導入する場合や、増設による生産性の向上が認められる場合は対象となります。

 

以上が主な注意点になりますが、この他にも様々な注意点がありますので、設備投資を考えており業務改善助成金の申請を検討する場合は、事前に慎重な準備を行う必要があります。

 

業務改善助成金(5)

業務改善助成金は賃金の引き上げと設備投資等を行う必要があります。

今回からは設備投資について説明していきます。

対象となる設備投資は原則「生産性向上に資する設備投資等」と定められています。

具体的な設備投資の対象は機械装置等の購入費、外部の専門家へのコンサルティング費用などが挙げられています。

ただし、Q&Aには「生産性の向上や労働能率の増進に資する設備投資等であっても、助成対象外となるものもある」とされており、申請を検討する場合はこれから行う設備投資が女性の対象として認められるか慎重に見極める必要があります。

 

社会保険適用拡大に伴う配偶者手当の見直し

配偶者手当の現状

「令和5年職種別民間給与実態調査」(人事院)によれば、家族手当制度があり配偶者に支給している事業所の割合は74.5%。そのうち支給にあたり配偶者の収入による制限を設けている企業が87.4%です。その多くは税制や社会保険法上の扶養控除や配偶者控除の上限額である年収103万円、130万円などに設定されており、これらの金額を超えると家族手当の支給も制限されるのが実態です。

 その結果、配偶者である自分の年収が103万円を超えると配偶者手当が支給されなくなり、また年収が130万円を超えると相手の健康保険の被扶養者から外され、自分で健康保険に加入しなければなりません。社会保険料の負担が増えて世帯収入が減ってしまうため、就業調整をしてしまうことになります。

 これが、「年収の壁」であり、政府は労働力不足の深刻さが増す中、働く意欲のある全ての人が「年収の壁」を意識することなく、その能力を意識することなく、その能力を十分に発揮できる環境整備を図るために「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定。その中で企業に対して廃止を含めた配偶者手当の見直しを進めており、2023年10月20日に「配偶者手当の見直し検討のフローチャート」を公表しました。

 

配偶者手当の見直し手順

 フローチャートによると、その手順は、①賃金制度・人事制度の見直しの検討➡②従業員のニーズを踏まえた案の策定➡③見直し案の決定➡④決定後の新制度の丁寧な説明の4ステップとなっています。

 まず、①で他社事例などを参考にしながら自社に適合した案を検討します。それから②でアンケートや各部門からのヒアリングを行い、従業員のニーズを踏まえた自社案を策定します。そして③で従業員に納得してもらえる見直し案を決定。その過程では、労使間で丁寧な話し合いをすること、賃金原資総額の維持(廃止・調整する場合でも賃金原資の総額が変わらないように調整すること)、必要な経過措置を設けることなどを留意点として挙げています。最後に④で見直しの影響を受ける従業員に対して丁寧な説明を行い、従業員の満足度向上につなげるようにすること、としています。

 なおフローチャートでは従業員に納得感のある手当見直し案として以下の4つを具体例に挙げています。

 

手当見直し内容の具体例

  • 配偶者手当の廃止(縮小)+基本給の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+子供手当の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+資格手当の創設
  • 配偶者手当の収入制限の撤廃

 

見直しに伴う法的留意点

 配偶者手当の見直しは、労働条件の一つである賃金制度の不利益変更ともなります。そのため見直しにあたっては労働契約法第9条・第10条および判例等を踏まえた不利益変更への対応が必要です。配偶者手当の減額や廃止による不利益変更は、従業員の合意がない限り原則として認められません。したがって、前述のステップ②・③・④が重要になります。

 見直す場合は「支給対象者の基本給に吸収する」「全社員の基本給等を原資にする」「他の福利厚生制度で代替する」などの対応が必要となります。現在、配偶者手当の支給を受けており、廃止によって不利益を受ける従業員に対しては、段階的に支給額を減額していくなどの経過措置を取り、労働者の不利益を軽減することも検討すべきです。

 また、従業員の同意を得ることも必要なため、説明会なども検討し、丁寧かつ慎重に進める必要があります。

 

業務改善助成金(4)

業務改善助成金の賃金の引き上げについて説明してきましたが、そもそも対象となる事業者はどのような事業者なのでしょうか。

以下の三つの点を満たす事業者が業務改善助成金対象となります。

  • 中小事業者であること
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
  • 不交付要件に該当しないこと

今回は②の地域別最低賃金との差額が50円以内であることについて解説したいと思います。

例えば、東京都の令和5年10月の最低賃金は1113円となっています。業務改善助成金の対象となる事業者は、事業場内最低賃金が1163円以下であることが条件です。

この差額50円以内というのは、引き上げ前の金額になりますので、引き上げ後が地域別最低賃金を50円以上上回っても問題ありません。

現在東京で1150円が事業場内最低賃金である事業者が50円引き上げて1200円にした場合、50円コースの申請が可能です。

 

就業規則と労働契約書の優先順位について

就業規則に定めた所定労働時間と労働者との個別合意のある所定労働時間はどちらが優先となるのでしょう

たとえば就業規則では1日の所定労働時間が7時間30分、労使で合意した個別の労働契約書が8時間でともに法定労働時間内の場合、問題ないのか?
 就業規則は、その会社で働く労働者に共通する労働条件を定めており、労働契約書は個々の労働者との労働条件を定めています。就業規則の労働条件と労働契約書の労働条件が異なる場合には、労働者保護の観点から労働者にとって有利な労働条件が有効となります。就業規則が労働契約書より有利なら就業規則に基づくことになり、労働契約書のほうが就業規則より有利なら労働契約書に基づくことになります。

 就業規則と労働契約書との関係について、労働契約法では次のように定めています。

  • 「労働者および使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者および使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第112条に該当する場合を除き、この限りではない」(第7条)
  • 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」(第12条)

つまり①については、就業規則が個別に締結した労働契約の内容を補充することを定めた上でかつ、労働契約で合意した労働条件の部分は就業規則に優先することを定めています。しかし、②では労働契約で合意した労働条件が就業規則よりも労働者にとって不利な場合には、就業規則で定められた労働条件が優先することになります。

したがって、労働者との個別の労働契約で定めた労働条件については、その内容が就業規則で定める労働条件を上回る部分については有効となり、下回る部分については無効となります。無効となった部分は、就業規則で定めた労働条件によることになります。

個別の労働契約で労働条件を定める場合には、法律、労働協約(労働組合と締結した協約)、就業規則との関係(優先順位)を意識しなければなりません。労働契約法では「就業規則が法令又は労働協約に違反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条および第12条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については適用しない」(第13条)と定めています。

したがって、労働条件は、労働基準法、労働契約法等の法律に違反するものであってはならず、また労働協約、就業規則に違反するものであってもなりません。その優先順位は、(法律>労働協約>就業規則>労働契約)となります。労働者と労働契約を締結するにあたっては、この優先順位を理解して無効となるような労働条件で締結しないように注意しなければなりません。

 

業務改善助成金(3)

前回、業務改善助成金の対象となる方は、「事業場内最低賃金の労働者もしくは賃金を引き上げた場合に賃金額が追い抜かれる労働者」であると説明しました。以下は前回の例です。

 

Aさん 時給1020円

Bさん 時給1000円(事業場内最低賃金)

Cさん 時給1030円

 

30円コースの場合、Aさんは新しい事業場内最低賃金の1030円を下回るので対象となりますが、Cさんは下回らないので対象となりません。

この場合、Aさんの時給も30円上げないと助成の対象とはされません。Aさんの現在の時給が新しい事業場内最低賃金の1030円を下回っていますので、1030円以上にしなければなりませんが、それだけでは30円上がっておらず、助成対象の人数にはカウントされません。

事業場内最低賃金を引き上げて、下回っていた人全員を新しい最低賃金にすればその人数が助成対象の人数となるわけではないので注意が必要です。

業務改善助成金(2)

業務改善助成金の助成対象となる要件として、賃金の引上げがあります。この賃金の引き上げについて今回は解説します。

賃金の引き上げ額によって①30円コース②45円コース③60円コース④90円コースと四つのコースに分かれています。助成額は引き上げ額が大きければ大きいほど、引き上げる人数は7人を上限に多いほど助成額が高くなります。

注意すべきは賃金を引き上げた労働者の数え方です。

対象となる労働者は事業場内最低賃金である労働者もしくは賃金を引き上げた場合に賃金額が追い抜かれる労働者です。

追い抜かれる労働者とは次のような方でしょうか。具体例を挙げて説明します。

Aさん 時給1020円

Bさん 時給1000円(事業場内最低賃金)

Cさん 時給1030円

 

30円コースを申請しようとBさんの時給(=新しい事業場内最低賃金)を30円上げて1030円にした場合、Aさんは1030円を下回ります。この場合のAさんが追い抜かれる労働者に該当します。

CさんはBさんの新しい時給と同じ1030円ですので、追い抜かれた労働者には該当しません。

では、対象となる可能性のあるAさんはいくら賃金を上げれば助成の対象とされるのかを次回確認していきます。

 

業務改善助成金(1)

今回から、業務改善助成金について解説していきたいと思います。

業務改善助成金は厚生労働省の行う助成金の一つで事業場内の最も低い時間当たりの賃金を引き上げ、生産性向上に役立つ設備投資等を行う事業主が対象となるものです。

キャリアアップ助成金とは異なり、賃金を上昇させるだけではなく、設備投資も行う必要があるため、注意する点が多くあります。

また、申請は原則2月28日までに行う必要がありますので、それまでに業務改善計画と最低賃金引き上げ計画を作成しなければなりません。

次回以降に計画を策定する際の注意点について触れていこうと思います。

 

法定四帳簿の指摘事項への対応 労働基準監督署の調査に対応できる「法定四帳簿」の重要性と整備について(2)

前回に続き、法定四帳簿についてになります。

今回はそれぞれの具体的な運用について述べていきます。

労働者名簿の運用

 労働者名簿は事業場ごとに、日雇労働者を除くすべての労働者について作成する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入れの年月日、退職の年月日と原因です。記載事項に変更があった場合は遅滞なく訂正しなければなりません。保存期間の起算日は「労働者の死亡日、退職または解雇の日」です。

賃金台帳の運用

 賃金台帳は事業場ごとに作成し、賃金の支払いの都度、労働者ごとに遅滞なく記入する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数、基本給および手当額、賃金控除額です。保存期間の起算日は、「最後の記入日」となっています。賃金台帳は一般的な給与明細や源泉徴収簿での代用はできません。源泉徴収簿を兼ねた賃金台帳を使用する場合は、記載事項に記入漏れがないか確認しましょう。また日雇労働者に関しては、賃金台帳は必要ですが、賃金計算期間の記載は不要です。

出勤簿の運用

 出勤簿は、労働者の労働時間を把握するための帳簿です。記載事項は、労働者の氏名、出勤日、出勤日ごとの始業および終業時刻、出勤日別の労働時間数と休憩時間数、時間外・休日・深夜の労働時刻と時間数です。

 厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、労働時間の把握はタイムカードやICカード、パソコンの使用時間記録などの客観的な記録により把握することが求められています。自己申告制については、適正な時間把握を行うための十分な説明と、実態と申告が乖離する場合の実態調査が義務付けられています。2019年4月以降、客観的な記録による労働時間の把握は、法的義務となっています。高度プロフェッショナル制度対象労働者を除くすべての労働者が対象となっているため留意しましょう。

年次有給休暇管理簿の運用

 すべての企業は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者含む)に対し、年5日については、使用者が時期を指定して取得させることが義務付けられています。使用者は、年次有給休暇を与えた時期、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした帳簿を作成し、保存しなければなりません。労働者名簿や賃金台帳と併せて調製することも可能です。

 

法定四帳簿の指摘事項への対応 労働基準監督署の調査に対応できる「法定四帳簿」の重要性と整備について(1)

法定四帳簿とは

 法定四帳簿は、法令で定められた帳簿です。「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の法定三帳簿に加えて、2019年4月から「年次有給休暇管理簿」が追加され、4種類の帳簿を整備し、保存することが義務付けられました。これらを「法定四帳簿」といい、いずれも必要事項が記載されていればどんな様式でも構わないとされています。保存期間は、2020年4月1日施行の改正労働基準法第109条により、5年に延長されました。現状は経過措置として従来の3年ですが、5年の保存期間を見据えて対応することが重要です。 

法定四帳簿に対する是正勧告

 法定四帳簿に起因する是正勧告では、帳簿を作成していない、記載漏れがある、賃金台帳を事務委託した会社にあずけて自社で保存していない、などのケースがあります。年次有給休暇管理簿を除き、規定に違反した場合は労働基準法により30万円以下の罰金に処される場合があります。また労働基準監督署の調査の際に帳簿を提出しない、または虚偽の記載をした帳簿を提出した場合も処罰の対象となるため適正な整備が重要です。

次回は具体的な運用について解説します。

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