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自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点(2)

 次に、自然災害時の会社の休業の際に、従業員に対して年次有給休暇の取得を命ずることができるのかについてですが、例えば、台風の直撃を受ける日を休業にしても業務上の支障がない場合、従業員に年次有給休暇取得を奨励することはできます。しかし、年次有給休暇を取得するか否かはあくまで従業員の判断であり、会社がそれを強制することはできません。なお、会社の休業に伴い労働基準法上の休業手当ではなく、賃金の全額を得るために従業員自らの判断で年次有給休暇を取得することは可能であり、会社はそれを拒むことはできません。したがって、会社として年次有給休暇の取得を前提に自宅待機を命ずることはできず、単に年次有給休暇の取得を奨励する程度にとどめておくことになります。

 ところで、自然災害等による公共交通機関の運休等により出勤できない従業員への対応ですが、会社が営業しているのであれば、欠勤として取り扱うかまたは年次有給休暇の取得とするかは従業員の選択によります。このとき、時間を要しても迂回するなどして何とか出勤できる状況で、なおかつ出勤が可能であるにもかかわらず会社が休むことを命じた場合には、休業手当の支払い義務が生じることになります。したがってこのような場合に休むかどうかの判断は従業員の判断に任せて、年次有給休暇の取得を促すべきでしょう。

自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点

 会社は、労働契約法上、その使用する従業員に対して、生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています(第5条)。自然災害だからといって、使用者としての安全配慮義務が免除されるわけではありません。昨今、多発する台風や地震等の自然災害を想定すれば、自然災害発生による非常時において出勤、退勤、休業等の勤務体制を事前に検討しておくことは、従業員の安全確保のために必要なことです。

 台風による強風や豪雨、地震などの災害が発生することが十分予測される場合、または発生したときは、従業員の通勤は普段よりも危険な状態となり、災害や事故に巻き込まれることは十分にあり得ます。万一の場合には、通勤災害として労災認定の対象となり、労災保険から必要な保険給付が行われますが、状況によっては使用者としての安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

 地震の場合は、その発生が予測しにくいですが、台風などはニュースやインターネット情報などである程度の進路予測がつきます。したがって、事前に出退勤のあり方や休みとするか否かの判断、危険回避のための指示は十分可能でしょう。

 会社には、従業員に対して労働契約上の「業務命令権」があり、自然災害が起きた際に出勤とするか自宅待機とするかの従業員への指示は会社の判断によります。自宅待機とは、会社が従業員に対して、業務命令として自宅での待機を命じることです。会社が台風の接近などを予測して従業員に対して、従業員の安全のために事前に自宅待機を命じる場合には、就業規則などに「会社の責めに帰すべき事由により休業させた場合は、労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%)を支払う」旨を定めておくことで、それによることができます。しかし、何ら定めがなく、自宅待機を命じた場合、労働者は原則として、民法536条第2項により賃金の全額請求も可能となります。なお、自然災害の発生によって会社や工場などが直接被害を受けたり、停電したりして自宅待機等をさせざるを得ない場合もあります。このような場合は、不可抗力による休業となり、使用者に責任はないので休業手当を支払う必要はありません。

 

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし(3)

 会社が労災の支給決定の取り消しを求めた本件に対し、最高裁判所は事業主は労災支給処分によって法律上保護された利益を侵害された「法律上の利益を有する者」に当たらないとして、訴訟を起こす資格である「原告適格」を有しないと判断しました。

 「労働保険料の額は申告または保険料認定処分のときに決定することができれば足り、労災支給処分によってその基礎となる法律関係を確定しておくべき必要性は見出し難い」と述べ、「労災保険給付のうち客観的に支給要件を満たさない額は、事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎とはならない」としています。

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし(2)

 会社が労災保険給付の決定の取消処分を求めて訴訟を起こした本件に対し、最高裁判所は訴訟を起こす資格(原告適格)がないとする判断を示しました。

 判断軸として、処分の取り消しを求める場合の「法律上の利益を有する者」とは、「労災支給処分に基づく労災保険給付の額が当然に事業主の納付すべき労働保険料の額の決定に影響を及ぼすこととなるか否かが問題となる」ことを示します。その上で労災保険法は、労災保険給付の支給または不支給の判断をその請求した被災労働者等に対する行政処分をもって行うが、「これは労災保険給付に係る多数の法律関係を早期に確定するとともに、被災労働者等の権利利益の実効的な救済を図る趣旨に出たものであって、事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎となる法律関係まで早期に確定しようとするものとは解されない」と述べています。

 また、労災保険料率については、事業ごとの労災保険給付の額に応じ、メリット収支率を介して増減し得るものとしているが「事業主間の公平を図るとともに、事業主による災害防止の努力を促進する趣旨のものであるところ、客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額を事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎とすることは趣旨に反する」と言っています。

 以上を踏まえた最高裁判所の結論を次回に確認します。

会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし

 本件は札幌中央労働基準監督署が財団の従業員に、労災保険法に基づき業務に起因して疾病を罹患したことを受けて療養補償給付等の支給決定したことに対し、処分の取り消しを求めた事案です。

 財団側はこの支給決定によって労働保険の保険料が増額される恐れがあることから、処分取り消しを求める訴訟を提起できる、即ち原告適格があると主張しました。

 1審判決では原告適格を否定しましたが、原審判決では労災保険の支給決定によってメリット収支率が大きくなり、納付すべき労働保険料が増額されるおそれがあるとし、「事業主は、労災支給処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者として」原告適格を認定しました。

 次回以降にこれを翻した最高裁の判断を確認していきます。

育休中の同僚の代替支援助成企業を拡大

 厚生労働省は育児休業中の同僚をフォローした社員を支援するための中小企業への助成金の対象を2025年度から拡大すると報じられました。2024年1月から始まった同制度は、同僚社員へ追加手当などを支給する場合にかかる費用を補助するものです。

 これまでの制度では資本金に応じて小売業では50人以下、サービス・卸売業では100人以下の中小企業が対象でした。25年度からは全ての業種で「従業員300人以下」の企業も対象になります。

 助成要件は、育休中の社員や育児のため短時間勤務をする社員の業務を代替した同僚に対して、負荷の増加に伴う追加手当を支払う場合などに支援策を適用するものであることです。育休中の社員向けでは社会保険労務士の採用など労務体制整備にかかる費用を5万円、同僚に支援する業務代替手当の3/4を国が負担し、手当の支給上限は月10万円としています。

 例えば5人の部署で一人が育休を取得した場合、残る4人に業務代替手当を毎月4万円支給すると企業の負担が新たに16万円生じます。この16万円のうち3/4にあたる12万円を助成することになります。

若手従業員の離職の原因と防止策を探る(3)

従業員の離職防止策

 従業員の離職防止策を検討するうえで、すぐに対応が難しい課題もあります。それでも、人出不足の中で各社様々な工夫を始めている現状を踏まえ、自社においても従業員の定着、人材流出を防止する施策は検討しなければなりません。

 そのためには、賃金等の処遇改善のほか、働き方を見直し、ワークライフバランスがとりやすい柔軟な働き方を実現するための工夫も必要です。また職場のコミュニケーション活性化を図るために、例えば社内イベントの開催やハラスメント防止研修なども検討すべきでしょう。

若手従業員の離職の原因と防止策を探る(2)

離職原因を分析・把握する

 「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると2022年1年間の転職入職者が前職を辞めた「個人的理由」では「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」、「給与等の収入が少なかった」、「会社の将来が不安だった」の順でした。また、「令和2年転職者実態調査」によると、転職者が直前の会社を「自己都合」で離職した理由は「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」が最も多く、「満足のいく仕事内容ではなかったから」、「賃金が低かったから」、「人間関係がうまくいかなかったから」なども多くなっています。

 これらのことから、賃金が会社の属する業界水準、規模水準を下回るようでは、人材確保は困難です。また、近年は働き方改革が進み、労働者がワークライフバランスを重視する傾向にあります。たとえ賃金が高くとも、それが残業や休日出勤が多いなどの理由によるものである場合や、年次有給休暇が取りにくい環境である場合は、プライベートを重視する傾向にある若手従業員の定着を図ることは難しいと考えられます。職場の人間関係が悪いと従業員は大きなストレスを抱えることになります。特にハラスメントなどが横行する職場は、従業員の離職を防ぐのが困難になります。まずは、自社の労働条件や労働環境について従業員がどのように認識しているかをアンケートなどにより調査・分析し、問題点を明らかにする必要があります。また、退職者についてはしっかりと退職理由をヒアリングすることも必要でしょう。

若手従業員の離職の原因と防止策を探る

 人出不足が続く中、新たに人を募集し、採用するには時間もコストもかかります。まずは、今いる従業員の離職をいかに防止し、定着を図るかが重要です。ここでは、若手を中心に従業員の離職要因を探りながら、離職防止のための施策などを検討してみます。

離職の現状と企業側のリスク

 労働人口が減少している我が国において、人材の確保は年々難しくなっています。また、転職等による雇用の流動性が高くなっている今日、人材の流出を防ぎにくい風潮もあります。そうして中で従業員の離職を防止し、いかに定着を図るかは企業にとって重要な経営課題の一つです。

 厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者が37.0%、新規大学卒就職者が32.3%であり、事業規模が小さいほど離職率が高くなる傾向があります。

 優秀な人材の流出は、事業活動の停滞や企業成長の鈍化を招くだけではありません。自社の事業に必要な経験やノウハウを有する人材が流出することは、競合他社との企業競争力の低下につながる恐れもあります。また、人材育成にかけたコストが無駄になるばかりでなく、新たな人材確保・育成にさらなるコストはかかります。そのうえ、離職者が担当していた業務を他の従業員が引き継がなければならず、既存従業員の負担が増し、さらなる離職が起こるなどの悪循環を生む恐れもあります。その結果、生産性やサービスの質が低下するといった事態にもなりかねません。

 離職率の高さは、企業イメージにも直結します。インターネット等で人が定着しない企業評価をされると、採用活動にも悪影響を及ぼし、優秀な人材を確保できないことにもなりえます。

能力不足解雇 判例2-1

 前回の判例では能力不足解雇が認められなかったケースを紹介しましたが、今回は能力不足解雇が認められたケースです。

 営業経験者としてそれに見合う待遇で雇用された従業員に対し、会社側は営業成績不良及び勤務態度不良で就業規則に定められた「勤務成績または能率が不良で就業に適しないと認められた場合」に該当するとして解雇しました。

 この従業員の営業成績は、売り上げ目標年間1億円に対し8カ月で1500万円余りと、他の社員が目標の70%程度の売上実績を上げているのに比べ非常に低い成績となっています。

 また、日報などの書類の提出期限を守らない、会議に遅れる、約束の時間を守らない、全員で行うべき棚卸業務を行わないなど協調性に欠けるなど勤務態度が良くありませんでした。上司、社長からの再三の注意指導にも関わらず、営業成績も勤務態度も改善しなかったことも認められ、解雇は有効と判断されました。

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