相談事例
副業を認めている会社の従業員が就業中に怪我をした場合どのように対応すべきか(2)
給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当し、毎月の支払われた賃金の総額を基に計算する日額をいいます。具体的には、原則として業務上または通勤途上における負傷等の原因となった事故が発生した日(算定事由発生日)の前3箇月に被災労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の総暦日数で除した1日あたりの額となります。ただし、賃金締切日が定められているときは、算定事由発生日直前の賃金締切日から3箇月間に支払われた賃金総額を、その期間の総暦日数で除して算出します。
しかし、複数事業所勤務労働者の場合、算定事由が発生した会社のみ給付基礎日額を算定すると、副業・兼業先についても休業して稼得能力を喪失しているにもかかわらず、給付基礎日額は低額なものになってしまいます。そこで、複数事業所勤務労働者に係る給付基礎日額の算定においては、原則として、算定事由発生日前3箇月間に支払われたそれぞれの就業先事業場から支払いを受けた賃金を合算し、その総額を基に給付基礎日額を算定して休業補償給付〈休業給付〉の額が決定されます。ただし、算定事由発生日において既に副業・兼業先の事業場を離職していて、算定事由発生日から前3箇月間に一部期間しか就業実態がないような場合は、その一部期間に支払われた賃金額を基に算定します。
なお、休業補償給付〈休業給付〉には3日間の待期期間があり、その間は支給されません。ただし、業務上災害の場合、災害発生の会社には当該待期期間について労働基準法上の補償義務(1日につき平均賃金の60%)があります。
副業を認めている会社の従業員が就業中に怪我をした場合どのように対応すべきか
労災保険は労働者が業務上や通勤途上のおける負傷、疾病、障害、死亡(負傷等)に対して、必要な保険給付を行います。災害発生時に事業主が異なる2つ以上の複数の会社と雇用契約関係にある労働者(複数事業所勤務労働者)に発生した業務災害または通勤災害に関しても必要な保険給付は行われます。副業や兼業で複数の会社に勤務する場合、いずれか一つの会社の仕事で起きた業務上災害や通勤災害が原因で休業する際の補償はどうなるでしょうか。
業務上または通勤災害での療養のため、労務不能となって会社を休んだときは、休業補償給付〈休業給付〉が支給されます(〈〉内は通勤災害に係る給付。以下同)。休業補償給付〈休業給付〉は、原則として、働いていた会社から支払われる賃金を基に保険給付の額が決まります。しかし、複数事業所勤務労働者については、業務上災害や通勤災害が発生した会社での賃金を基に保険給付の額を決定するのではなく、雇用されているすべての会社等から支払われているそれぞれの賃金の合計額を基に保険給付の額が決められることになります。
労災保険の保険給付には、現金給付で支給される休業補償給付〈休業給付〉、傷病補償年金〈傷病年金〉、障害補償年金〈障害年金〉、遺族補償年金〈遺族年金〉、葬祭料〈葬祭給付〉があります。これらの保険給は、給付基礎日額(保険給付の基礎となる日額)を基に決定されます。複数事業所勤務労働者については、それぞれの就業先の事業場で支払われている賃金の合算額を基礎として給付基礎日額が決定されることになります。
次回は給付基礎日額についてと、複数事業所勤務労働者の場合について確認します。
諸手当を縮小し、基本給に組み入れることで割増賃金はどう変わるのか
厚生労働省は、企業の配偶者手当見直しのフローチャートで、配偶者(家族)手当の廃止(縮小)と基本給の増額などをセットにした具体例を示しています。
家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当などが割増賃金の計算から除外されていますので、家族手当等の除外賃金を減額、廃止して基本給に組み入れれば、その分割増賃金の単価が増えることになります。
家族手当等を減額するとして、除外賃金に該当するかどうかは実質的に判断されることに注意が必要です。家族手当に関しては、均衡上独身者にも支給されていたり、家族数と無関係に一定額支給されるものは除外賃金に該当しません。
住宅手当についても、持家・鎮台の別や住宅ローン・家賃の額といった個別的事情を反映した金額が支給されていない場合は、除外賃金には含まれないと解されています。
うつ病で休職・復職を繰り返す従業員の解雇の可否(3)
前回最後に触れたK社事件は、躁うつ病で休職していた従業員が一旦復職したものの、復職後の欠勤が目立ち、症状が再発したため、会社は当該労働者を「精神または身体の障害もしくは病弱のため、業務の遂行に甚だしく支障があるときと認められたとき」等の就業規則上の解雇事由により解雇したものです。しかし、就業規則上、同一理由による再度の休職も予定され、休職期間は最大2年とされていました。
判決は、解雇の先立ち会社が原告主治医に助言を求めた形跡がないことや、就業規則上再度の休職も可能であり、再休職を検討することが相当であること、会社は原告のほかに病気で通常勤務できない者2名の雇用を継続しており、原告のみ解雇することは平等取り扱いに反することも解雇権濫用であるとしています。
休職について、通算規定や回数の限度を定めていない会社も多くあります。この場合、与えられた休職期間を超えない限り、回数を問わず休職できることになります。
うつ病で休職・復職を繰り返す従業員の解雇の可否(2)
うつ病等の精神疾患を理由とする休職の場合は、復職したものの再発して再休職となることが多いのが実情です。しかし、休職・復職を繰り返す場合であっても、労務提供の可能性を勘案し、解雇等の判断は慎重に行う必要があります。
そこで、まず就業規則にどのように定めているかの確認をする必要があります。例えば、「私傷病による休職期間は6カ月とする。ただし、休職期間満了前に復職し、その後3カ月以内に同一または類似の傷病等で休職した場合は前後休職期間を通算し、当該通算期間の満了によって自然退職とする」というようの定めていたとします。
この場合は、休職・復職を繰り返したとしても規定の範囲内であれば、休職期間が通算6カ月に達するまでは退職させることはできません。仮に解雇するにしても、残りの休職期間を適用しても回復の見込みが認められない、とならない限りは解雇権の濫用として解雇無効となる可能性が高くなります。
裁判例でも、再度の休職が可能であったにもかかわらず、主治医の意見を聞かずになされた躁うつ病の再発を理由とする解雇が無効とされたケースがあります(K社事件:東京地裁平成17年2月18日判決)。
うつ病で休職・復職を繰り返す従業員の解雇の可否
従業員が、精神疾患等により休職と復職を繰り返す場合があります。このような従業員がいると、休職期間中の従業員の仕事を補っている周囲の従業員にとっても負担となることがあります。
休職制度は、私傷病により従業員が労務に従事できない場合に、会社との労働契約を継続させたまま労務提供を免除するものです。この休職制度は必ずしも法律に基づくものではなく、当該制度を設けるか否かは会社の判断によります。
本来、従業員が私的な事由を原因としてメンタル不調等で労務提供が出来なければ、労務契約上の債務不履行となります。就業規則等に解雇事由として「身体の障害により業務に耐えられない場合」旨の規定があれば、解雇することも可能です。ただし、解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして無効とされます(労働契約法第16条)
そこで、多くの会社では、就業規則等に傷病による休職制度を設けています。休職期間内に回復し労務の提供が可能になれば、休職を終了して復職可能とし、回復せずに休職期間満了となれば、解雇または自然退職とするなど、労働契約終了までの一定の猶予期間としています。
男性従業員の育休復帰後の変形労働時間勤務を免除する必要があるか
1か月単位の変形労働時間制の対象となっている職場で、育児中の男性社員が通常の8時間勤務での働き方を希望した場合、会社は応じる義務があるでしょうか。
1か月または1年単位の変形労働時間制等により労働者を労働させる場合には、「育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならない」と定められています。
労働局や厚生労働省の示す例にも申し出た者や育児を行う者を変形労働時間制の適用免除とする例も挙げています。労働局の協定例には引き続きの適用に当たって、会社と従業員代表が協議するとしているものもあります。
変形労働時間制の適用を全面解除する必要があるとまではいえませんが、現在の勤務体制をどの程度修正すれば対応可能かについて、従業員と話し合うことが必要でしょう。
試用期間中の私傷病による休職者への対応
私傷病による休職制度を設けている企業は多いですが、法的には必ず設けなければならないものではありません。したがって、休職制度を設けるか否か、また設ける場合でもその適用対象労働者、適用条件(勤続年数など)をどのような基準にするかは会社の裁量です。
休職制度がある企業でも、試用期間中および勤続年数が短い(勤続1年未満など)従業員を適用対象外とするのが一般的です。しかし、このように試用期間中の者、または勤続年数が短い者が私傷病で中長期的に労務不能となった場合で休職制度がない場合、または休職制度があっても適用対象外となる場合に、どのように対応すべきかが問題となることがあります。
そもそも、労働契約とは、労働者が会社の指揮命令に従って健全な労務提供をし、会社がその対価として賃金を支払う契約です。私傷病が原因で仕事ができなければ労働契約上の債務不履行となりますので、会社はその労働契約を解約(解雇)できます。しかし、労働者を解雇するにあたっては労働契約法第16条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして解雇は無効となります。
試用期間は「解雇権留保付き労働契約」といい、会社は、試用期間中に採用した労働者の適格性などを含めて本採用するか否かを判断し、本採用しないときは、試用期間中に解雇または試用期間満了後に本採用拒否(=解雇)することになります。試用期間中は解雇権が留保されているので本採用後解雇よりは労働契約解消に係る使用者としての裁量権は広くなるものの、労働契約法第16条に基づき解雇の有効性が問われます。
試用期間中に労働者が私傷病のために一定期間、継続的に欠勤することは、試用期間中に習得すべき業務知識が習得できないということにもなります。したがって、解雇が認められやすいともいえます。しかし、私傷病による欠勤とはいえ、一時的に休ませることにより復職し、問題なく通常業務できることが見込まれる場合には、試用期間中における労務不能を理由に即座に解雇すると、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
また、就業規則上において休職制度を設けている会社であっても、就業規則に解雇の事由として、「精神又は身体の障害により、業務に耐えられないと会社が認めたとき」などと定められている場合は、それを根拠として解雇することができることになります。
しかし、私傷病により一時的に欠勤していることだけで労働契約上の債務不履行を理由に解雇が有効となるものではありません。1,2カ月程度の休業によって療養すれば職場に復職できることが明らかな場合は、解雇が認められないと判断されることもあります。また一定期間療養すれば元の職務に復帰できなくても配置転換や職務変更することで早期に職場復帰が見込まれる場合には、解雇無効となる可能性が高くなりますので慎重に判断しなければなりません。
私傷病での労務不能による解雇は、労働紛争に発展することが多いので、労務不能となる期間がどの程度の長さか、一部でも就労可能なのかどうかなどを総合的に判断する必要があります。
場合によっては、療養中の労働者に退職の意向を確認しつつ、退職勧奨を実施し、一定の条件をもとにした退職合意による退職の選択が可能であると提示することなども検討すべきでしょう。
休日出勤した社員から振替休日を半日ずつ2日に分割して取得したいと申し出があった場合の対応は?
仕事が忙しいときに、社員に休日出勤を命ずる場合があります。労働基準法上、使用者は労働者に対して、少なくとも週に1回(または4週を通じて4日以上)の休日を与えなければなりません(第35条)。これを法定休日といいます。また完全週休2日制を採用している場合は、法定休日を上回る法定外休日を与えていることになります。
繁忙期などに、いずれの休日であっても社員に休日出勤を命じた場合の代替措置として、所定の労働日を休日に振り替えることがあります。これを「振替休日」といいます。
休日出勤に対する振替休日を、何らかの定めもなく一方的に命ずることはできません。振替休日を行うためには、就業規則または労働協約(以下、就業規則等)において、休日と労働日を事前通知により振替ができる旨が定められているか、または、労使間で休日の事前振替をする旨の個別同意がなければなりません。
したがって、会社は休日出勤をした社員に対して、振替休日を行う場合には、休日出勤前にあらかじめ振り替えて休日となる労働日を指定する必要があります。休日出勤をさせた後に休日を指定することは、振替休日とはならず、代休(休日出勤をさせた代わりに後に任意の日に休日を与える措置)となってしまいます。なお、振替休日による場合でも、前述の法定休日は確保されなければなりません。
ところで、休日とは、労働契約において労働義務がないとされている日をいい、原則として暦日(午前0時から午後12時までの24時間)を単位としています(昭23.4.5基発535号)。
したがって、振替休日も暦日を単位として与えなければならず、半日に分割することは休日を与えたとは見なされません。半日でも労働するということは、その日は労働日となり、休日を与えたことにならないのです。
なお、前述のとおり、休日には法定休日と法定外休日があります。法定休日出勤を振替休日とする場合には暦日24時間で与えなければなりませんが、法定外休日については半日単位での取得が可能です。したがって、振替休日の運用にあたっては法定休日が確保されている限り、法定外休日の振替休日については、半日単位で取得することも可能である旨を就業規則等で定めておくなどの対応が必要でしょう。
休日出勤については、それが法定休日出勤であれば、割増賃金として休日出勤の労働時間に応じて1時間当たり3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。しかし、振替休日による場合には、休日と労働日を振り替えたことになるので割増賃金の支払いが不要となります。
しかし、振替休日が休日出勤と同一の週内で行われることなく、週をまたいで振り替えるなどにより、結果として休日出勤をした週の労働時間が法定労働(週40時間)を超えた場合には、その超過分につき1時間当たり2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
法定外休日に出勤した場合についても、週1日の休日は確保されているとはいえ、法定外休日に休日出勤をさせた結果、週40時間を超えて労働させることとなった場合には、その超えた労働時間については割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定外休日については、割増賃金を支払うことで振替休日を与えないとすることができます。
時間外労働の限度を超える時間外労働の割増率について
先日顧問先様から、 「特別条項付き36協定を労働基準監督署へ郵送提出をしたところ、限度時間を超えて働かせる一定の期間ごとの割増率の記載が無かったということで差し戻されてしまいました。この際の割増率は今まで通り法定割増率(二割五分)でよいのでしょうか?」 とのご質問を受けました。
確かに平成22年4月施行の改正労働基準法では、特別条項付き36協定を締結する際には限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3か月以内の期間、1年間)ごとに、割増賃金率を定める事。その割増率は法定割増率を超える率とするよう努めることと定められていますが、労使で話し合いの結果、二割五分とすることになった場合にはそのままでも問題はありません。
また、1か月に60時間を超える法定時間外労働に対しては、法定割増率が5割となり、事業主と労働者はそもそも時間外労働自体を減らす様に努める義務もありますので、ご注意下さい。