お知らせ
事前許可制にした残業の超過分の支払いについて(2)
事前の残業許可制を導入している場合、残業許可申請書に記載された時間と実際の残業時間に相違があると、労働者に不平不満が生じる場合があります。残業に対して事前許可制を採用している場合の裁判例では、「超過勤務自体、明示の業務命令に基づくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないため、やむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のもの」、「休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置していた」等の運用実態を認定して、残業手当の支払いを命じたものがあります(ゴムノイナキ事件、大阪高判、平17.12.1)。
また、残業承認制がある会社で、承認されていなかった残業時間の存否が争われた事例では、裁判所「会社が労働者に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、労働者の時間外労働が常態化していたことからすると、係争時間のうち労働者が会社の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制に従い、労働者が事前に残業を申請し、会社代表者がこれを承認していたか否かにかかわらず、少なくとも黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令かに置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである」として、割増賃金の支払いを命じた事例もあります(クロスインデックス事件、東京地裁、平30.3.28)。
残業手当を削減しようという意図のみをもって就業規則などで規制しても、実際の運用が適切でなければ無意味なものになります。時間外労働の管理は、たとえばタイムカード等を活用して客観的データに基づくこととし、次に就業規則で定めた事前許可制や承認制等の文書提出の徹底を図り、かつ、残業時間をどのように確認するかを定めて、適正に運用することが必要です。就業規則に規定するのみで会社が時間外労働の管理を適正に行っていなければ、申請した時間以外の残業についても割増賃金を支払う必要が生じる場合もあります。
事前許可制にした残業の超過分の支払いについて
働き方改革のもとに、長時間労働の抑制や残業時間削減は、労働者の健康保持のために多くの企業で工夫がなされています。36協定(時間外労働および休日労働に関する協定)があっても協定違反とならないように、使用者として労働者の時間外労働(残業)については、適正な労働時間管理が求められます。したがって、残業に関しては、残業命令制、事前申請による残業許可制や事前申告による承認制を導入している会社が多くあります。しかし、いずれの制度も時間外労働の管理に関しては、残業に対する会社の管理・運用の厳格さが求められます。
会社が厳しい労働時間管理を行っていたことを評価した裁判例があります。この会社は、残業について、就業規則上、時間外勤務は所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外労働は認めないとするなど、厳格に運用していました。裁判所はその点を認定して残業代の請求を認めませんでした(ヒロセ電機事件、東京地裁、平25.5.22)。
また、残業禁止命令に係る裁判例もあります。従業員が、残業禁止の業務命令が出ているにもかかわらず残業をして、その手当を請求した事件で裁判所は、「使用者の明示の業務命令に反して、労働者が時間外または深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない。会社はこの業務命令を徹底させていた」と判断しました(神代学園ミューズ音楽院事件、東京高判、平17.3.30)。
雇用保険番号と個人番号の紐づけについて
退職者が離職票をマイナポータル経由で受け取るためには雇用保険番号と個人番号が連携されている必要があります。雇用保険の資格取得届に個人番号を記載していれば、基本的には雇用保険番号と個人番号が連携されます。ただし、いくつか例外のパターンがあります。
誤った個人番号を記載した場合や、違う雇用保険番号に個人番号が登録されていた場合は取得届に個人番号を記載しても連携がされません。この際に注意が必要なのは発行された通知書に「個人番号登録あり」と記載されていた点です。ハローワークでは資格取得届に個人番号が記載されていた場合、「個人番号登録あり」と印字されていました。雇用保険番号への個人番号の登録は取得手続きが完了した後に行われるため、通知書に「個人番号登録あり」と印字されていても、実際には連携されていないケースがあります。
なお、この「個人番号登録あり」の印字ですが、令和7年1月から記載されなくなりましたので、これから取得届を提出する場合は登録されていないにも関わらず「登録あり」と記載される紛らわしいことは起こらなくなりました。
被保険者でしたら自分の雇用保険番号と個人番号が連携されているかマイナポータルから確認できます。会社が確認する場合は、雇用保険事業所台帳をハローワークから取り寄せることになります。印刷されたものを受け取ることも可能ですし、CSVデータとして受け取ることも可能です。事業所台帳の個人番号欄が「1」となっている人は雇用保険番号と個人番号が連携されていることになります。
離職票のマイナポータルでの受け取り(2)
退職された方が失業給付の受給に必要な離職票をマイナポータルで受け取るためには、三つの条件があります。
①雇用保険番号と個人番号が紐づいていること
➁マイナンバーカードを取得し、マイナポータルの利用手続きを行うこと
③会社が雇用保険の喪失手続きを電子申請で行うこと
上記の条件を満たした場合は、自動的に離職票がマイナポータル経由で発行されます。退職される方や会社がハローワークに「マイナポータル経由で発行してほしい」などと連絡する必要はありません。
会社側はマイナポータル経由で発行されたかは、発出された公文書で分かります。今までは会社に会社分の離職票と本人分の離職票が送られていましたが、マイナポータル経由の場合は会社に本人分の離職票が送られません。
マイナンバーカードを取得し、マイナポータルの利用登録をすることは個人が行うことですが、残りの二つの条件は会社側が行うことになります。この制度を利用する場合の注意点について次回以降説明していきます。
シニア女性の採用と戦力化の成功(2)
前回紹介したランドセルメーカーでは、同社の社長が以前教職に就いていた関係で定年退職した教員仲間に声をかけたところ手伝ってくれ、その後も仲間が別の元教員を誘ってくれ、徐々に増えていきました。
担当者は「元学校の先生ですからランドセルを買いに来る子どもや父母の扱いは上手ですし、物覚えもいいし、本当に助かっています」と言います。また、「ランドセルの購入は新たに始まる6年間の節目のおめでたいイベントでもあり、とくに祖父母は一生に一つの孫への大事なものですからいいものを買ってあげたい。そんな祖父母の気持ちに同世代の彼女たちは寄り添って販売できるので、意欲的に働いてもらっています」とも言います。
しかし、シニアスタッフも最初は販売に必要なパソコンスキルは不得手でした。毎年2月に販売スタッフ全員を集めた1日研修を実施し、新商品のランドセルの知識だけでなく、パソコンの操作方法やPayPayなどの決済方法についても学びます。リスキリングに積極的に取り組むことで、シニアスタッフが生き生きと働ける職場を実現しています。
離職票のマイナポータルでの受け取り
2025年の1月20日から、離職票を事業主経由ではなくマイナポータルで離職者本人が受け取ることにできる制度が開始されました。これまでは、会社が雇用保険の喪失手続きを行い、ハローワークから離職票が会社に送られ、それを離職者に送る必要がありました。そのため、失業給付の手続きを会社から離職票が届くまでできませんでした。
この制度を活用すれば会社からの離職票の送付を待つことなく失業給付の手続きに取り掛かれますので、離職者としてはこれまでよりも早く失業給付を受けることができるようになります。
離職票のマイナポータル経由の受取にはいくつか条件があり、その準備を会社・離職者ともに行っておく必要があります。
新しい育児休業に係る給付金について(4)
出生後休業支援給付金の申請についてまとめてみましょう。
・実子の生まれた男性が申請する場合は、申請書の「配偶者の状態」を記入して、母子健康手帳または医師の診断書を添付する。申請書に配偶者(母親)の雇用保険番号は記載しない。
・女性の申請で、配偶者(父親)が雇用保険の育児休業を取得している場合は、申請書に配偶者(父親)の雇用保険番号を記載する。住民票などの続柄の確認できる書類が必要。
・これ以外のケースは、個々に添付書類が異なるので要確認。
育児休業の賃金登録を行う際に、同時に配偶者についても登録を行えば改めて出生後休業支援給付金の申請は必要ありません。賃金登録を行った際に配偶者についての登録を行わなかった場合は、育児休業給付の申請と同時に出生後休業支援給付金の申請も必要になりますので申請を忘れないようにしましょう。
新しい育児休業に係る給付金について(3)
出生後休業給付金の申請には添付書類が必要になることがありますが、ケースにより必要な書類が異なります。
まず、給付金を受けようとする方が父親で、かつ、子が養子でない場合は母子健康手帳(出生届出済証明のページ)または出産予定日の証明のある医師の診断書を申請書に添付します。これは配偶者が雇用保険に加入している場合でも変わりません。
前回、「両親ともに育児休業を取得する場合は雇用保険番号からその情報を確認」できるとしましたが、父親で子が実子の場合、当然に配偶者に関する出生後休業給付金の要件に当てはまりますので母親の雇用保険番号の記載は必要なく、申請書の配偶者の状態(1~7のいずれか)を記載して、書類を添付することになります。
わかりにくいかと思われますので、次回申請についてまとめます。
新しい育児休業に係る給付金について(2)
前回説明した「出生後休業支援給付金」の対象となる方について、両親ともに育児休業を取得することが原則となりますが、一定の場合は配偶者が育児休業を取る必要はありません。
例えば、配偶者がフリーランスで仕事をされる方のように雇用保険に加入していない場合や、お仕事をされていない場合などです。そのほかに配偶者がいない場合、被保険者(給付金を受ける方)が配偶者から暴力を受け別居している場合等が挙げられています。両親ともに雇用保険に加入している場合は、双方が育児休業を取得する必要がありますが、配偶者が雇用保険に加入していない場合は、この条件は必要ないということになります。
両親ともに育児休業を取得する場合は雇用保険番号からその情報を確認できますが、配偶者の育児休業が給付金の要件でない場合は、配偶者がフリーランスであること、配偶者がいないことなどを証明する書類が申請時に必要になります。
新しい育児休業に係る給付金について
2025年4月から育児休業について、雇用保険からの新しい給付金が創設されます。以前に説明した育児期間中の時短勤務に対する給付金と、今回説明する「出生後休業支援給付金」になります。
この給付金は、共働き・共育てを促進するために出生直後の一定期間に両親ともに14日以上育児休業を取得した場合に、育児休業給付金に上乗せされて給付されるものになります。支給される金額は休業開始前の賃金の13%程度で、育児休業給付金の67%と合わせて休業前の賃金の80%となり、健康保険料と厚生年金保険料が免除されているため休業前の手取り額と同程度になります。
ただし、受給できる期間は28日が上限と短くなっております。次回以降に対象となる方について説明していきます。