自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点

 会社は、労働契約法上、その使用する従業員に対して、生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています(第5条)。自然災害だからといって、使用者としての安全配慮義務が免除されるわけではありません。昨今、多発する台風や地震等の自然災害を想定すれば、自然災害発生による非常時において出勤、退勤、休業等の勤務体制を事前に検討しておくことは、従業員の安全確保のために必要なことです。

 台風による強風や豪雨、地震などの災害が発生することが十分予測される場合、または発生したときは、従業員の通勤は普段よりも危険な状態となり、災害や事故に巻き込まれることは十分にあり得ます。万一の場合には、通勤災害として労災認定の対象となり、労災保険から必要な保険給付が行われますが、状況によっては使用者としての安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

 地震の場合は、その発生が予測しにくいですが、台風などはニュースやインターネット情報などである程度の進路予測がつきます。したがって、事前に出退勤のあり方や休みとするか否かの判断、危険回避のための指示は十分可能でしょう。

 会社には、従業員に対して労働契約上の「業務命令権」があり、自然災害が起きた際に出勤とするか自宅待機とするかの従業員への指示は会社の判断によります。自宅待機とは、会社が従業員に対して、業務命令として自宅での待機を命じることです。会社が台風の接近などを予測して従業員に対して、従業員の安全のために事前に自宅待機を命じる場合には、就業規則などに「会社の責めに帰すべき事由により休業させた場合は、労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%)を支払う」旨を定めておくことで、それによることができます。しかし、何ら定めがなく、自宅待機を命じた場合、労働者は原則として、民法536条第2項により賃金の全額請求も可能となります。なお、自然災害の発生によって会社や工場などが直接被害を受けたり、停電したりして自宅待機等をさせざるを得ない場合もあります。このような場合は、不可抗力による休業となり、使用者に責任はないので休業手当を支払う必要はありません。

 

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