育児時短就業給付金の創設(3)
育児時短就業給付金の支給額は原則、時短勤務中の各月に支払われた賃金の10%になります。時短勤務前の1か月の給与が30万円で、時短勤務で25万円になった場合は、25万円の10%、2万5千円が支給されます。
1か月の給与が時短勤務前の90%を下回らない場合は、従前の給与の額を上回らないように調整された金額が支給されます。例えば先ほどの例の場合、時短勤務で28万円になった場合は約1万8千円が支給され、1か月の給与が29万8千円となり、時短勤務前の給与に近い額となります。
また、上限額と下限額もあります。支給額が2295円以下の場合は支給がされず、支給対象月に支払われた給与と支給額の合計が45万9千円を超える場合は、そこまでの金額しか支払われません。1か月の給与が60万円の方が時短勤務で賃金が80%になった場合、48万円となり、支給限度額を超えるため、支給の対象とはなりません。
育児時短就業給付金の創設(2)
育児時短就業給付金の支給対象となる時短就業とは、「2歳に満たない子を養育するために、被保険者からの申し出に基づき、事業主が講じた1週間当たりの所定労働時間を短縮する措置」を言います。
これには1日当たりの労働時間を短縮した場合に限らず、週5日勤務から週4日勤務に短縮するなど1週間当たりの所定日数を変更した場合や、正社員からパートタイム労働者に転換した場合なども含まれます。
フレックスタイム制や変形労働時間制で働かれている方も、清算期間・対象期間の総労働時間を短縮して就業するときは対象となります。シフト制で勤務される方も、1週間当たりの平均労働時間が短縮されていることを確認できる場合は対象となります。
育児時短就業給付金の創設
2025年4月から2歳に満たない子を養育するために時短勤務をし、時短勤務前と比較して賃金が低下するなどの要件を満たす場合、給付金が支給されるようになります。
まずは受給資格ですが、対象となるのは雇用保険の被保険者で2歳未満の子を養育するために、1週間当たりの所定労働時間を短縮して就業する方です。役員や週の所定労働時間が20時間未満であるとして雇用保険に加入していない方は、この給付金の対象となりません。
また、育児休業給付の受給資格と同じように、原則育児休業もしくは育児時短勤務の開始前の2年間に11日以上の勤務等をした月が12カ月以上必要です。育児休業給付を受けている方は受給資格を満たしていますが、育児休業を取得せずに時短勤務のみをする方は要件を満たすか注意が必要です。
カスハラ条例施行、国も立法化(2)
企業の対応については「速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申し入れ、その他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定。従業員を守るために「現場責任者等が対応を代わった上で、顧客等から就業者を引き離す、あるいは、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら対応するなど、就業者への被害がこれ以上継続しないようにすることが求められる」としています。
さらに
①カスハラ対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
➁カスハラ禁止の方針の明確化と周知 ③相談窓口の設置
④適切な相談対応の実施
⑤相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知
⑥相談を理由とした不利益な取り扱いの禁止の周知
⑦現場での初期対応の方法や手順(マニュアル)の作成
を挙げています。
カスハラ条例施行、国も立法化
悪質なクレームなどカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に向けた自治体や国の動きが加速しています。東京都の「カスハラ防止条例」が4月1日から施行されるとともに、政府はカスハラについて雇用管理上の措置義務を盛り込んだ改正労働施策総合推進法を通常国会に提出する予定です。
セクハラ、パワハラ等は主な行為者が職場内に限定されますが、カスハラの加害者は外部の第三者である点に特徴があります。東京都は条例第4条で「何人も、あらゆる場において、カスハラを行ってはならない」とカスハラ禁止を規定。カスハラの定義を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」としています。
つまり、①顧客等から就業者 ➁著しい迷惑行為 ③就業環境を害する の3つの要素をすべて満たすものがカスハラです。著しい迷惑行為とは「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」と規定しています。
退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて(2)
他にも、労働者の退職時に未消化の年次有給休暇がある場合にそれを買い取ることは認められています。これは、労働者の退職によって年次有給休暇の請求権が消滅してしまうことによるものです。業務の引き継ぎなどのために未消化となる年次有給休暇の日数分だけ労働者の退職日を変更することが可能であれば、退職日をずらしてもらうという方法もありますが、労働者の事情で退職日を変更できないこともあるでしょう。そのような場合は業務の引き継ぎを優先して残日数分の買い取りに応じることは合理的です。
退職勧奨や希望退職募集などにより退職予定日があらかじめ決まっているような場合は、残務整理などを優先しなければならず、年次有給休暇を消化しきれないこともあるでしょう。その場合に、それを買い取ることは、労働者に不利益になるものではなく問題ありません。退職勧奨や希望退職などはあくまで会社から退職に合意を求めているものであり、退職合意に至る過程で残務処理などを優先した場合は、退職日まで消化しきれなかった年次有給休暇を買い取ることは労働者の不利益を減ずるための条件となるからです。
ただし、このケースでも、既に業務の引き継ぎや残務整理も完了し、退職予定日までに取り組んでもらう仕事が特段ないような場合は、未消化の年次有給休暇の取得を促進し、再就職活動に利用してもらうなどの対応をすべきです。
なお、時効となった年次有給休暇の買い取りおよび前述の退職に伴う年次有給休暇の買い取りなどは、例外的に買い取りが「認められている」ものであり、「買い取らなければならない」という会社に対する買い取り義務が法的に求められているものではありません。したがって、退職予定の労働者に対して、業務の引き継ぎや残務整理が完了しているにもかかわらず、出勤を求めたりすること、または退職予定の労働者から退職予定日まで出勤する代わりとして年次有給休暇の買い取り要求に応じることは、年次有給休暇の取得を阻害することになり違法となる可能性もあります。したがって、このような場合でも退職予定日までの取得促進を図るべきです。
退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労の回復を図ることを目的として、所定労働日の任意の労働日について賃金を失うことなく労働が免除される休暇です。
労働基準法上、使用者にはその使用する労働者の勤続年数に応じて一定の日数の年次有給休暇を与える義務があります。年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならず、取得を抑制したりすることは禁止されています。
行政通達においても「年休の買上げの予約をし、これに基づいて労働基準法39条の規定により支給し得る年休の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条の違反である」(昭30.11.30基収第47178号)とされています。したがって、使用者は労働者から年次有給休暇の買い取りを要求されても買い取る義務はないことになります。
ただし、例外的に年次有給休暇の買い取りが認められる場合があります。例えば、年次有給休暇の請求権には2年の時効があり、2年を経過すると請求権が消滅します。したがって、時効によって消滅した日数を事後的に買い取ることは労働者に不利益にならないとして認められています。
しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることをルール化することは、買い取りを目的として取得しない労働者が出てくる可能性もあるので避けるべきです。
自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点(2)
次に、自然災害時の会社の休業の際に、従業員に対して年次有給休暇の取得を命ずることができるのかについてですが、例えば、台風の直撃を受ける日を休業にしても業務上の支障がない場合、従業員に年次有給休暇取得を奨励することはできます。しかし、年次有給休暇を取得するか否かはあくまで従業員の判断であり、会社がそれを強制することはできません。なお、会社の休業に伴い労働基準法上の休業手当ではなく、賃金の全額を得るために従業員自らの判断で年次有給休暇を取得することは可能であり、会社はそれを拒むことはできません。したがって、会社として年次有給休暇の取得を前提に自宅待機を命ずることはできず、単に年次有給休暇の取得を奨励する程度にとどめておくことになります。
ところで、自然災害等による公共交通機関の運休等により出勤できない従業員への対応ですが、会社が営業しているのであれば、欠勤として取り扱うかまたは年次有給休暇の取得とするかは従業員の選択によります。このとき、時間を要しても迂回するなどして何とか出勤できる状況で、なおかつ出勤が可能であるにもかかわらず会社が休むことを命じた場合には、休業手当の支払い義務が生じることになります。したがってこのような場合に休むかどうかの判断は従業員の判断に任せて、年次有給休暇の取得を促すべきでしょう。
自然災害発生時に自宅待機を命じる場合の留意点
会社は、労働契約法上、その使用する従業員に対して、生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています(第5条)。自然災害だからといって、使用者としての安全配慮義務が免除されるわけではありません。昨今、多発する台風や地震等の自然災害を想定すれば、自然災害発生による非常時において出勤、退勤、休業等の勤務体制を事前に検討しておくことは、従業員の安全確保のために必要なことです。
台風による強風や豪雨、地震などの災害が発生することが十分予測される場合、または発生したときは、従業員の通勤は普段よりも危険な状態となり、災害や事故に巻き込まれることは十分にあり得ます。万一の場合には、通勤災害として労災認定の対象となり、労災保険から必要な保険給付が行われますが、状況によっては使用者としての安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。
地震の場合は、その発生が予測しにくいですが、台風などはニュースやインターネット情報などである程度の進路予測がつきます。したがって、事前に出退勤のあり方や休みとするか否かの判断、危険回避のための指示は十分可能でしょう。
会社には、従業員に対して労働契約上の「業務命令権」があり、自然災害が起きた際に出勤とするか自宅待機とするかの従業員への指示は会社の判断によります。自宅待機とは、会社が従業員に対して、業務命令として自宅での待機を命じることです。会社が台風の接近などを予測して従業員に対して、従業員の安全のために事前に自宅待機を命じる場合には、就業規則などに「会社の責めに帰すべき事由により休業させた場合は、労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%)を支払う」旨を定めておくことで、それによることができます。しかし、何ら定めがなく、自宅待機を命じた場合、労働者は原則として、民法536条第2項により賃金の全額請求も可能となります。なお、自然災害の発生によって会社や工場などが直接被害を受けたり、停電したりして自宅待機等をさせざるを得ない場合もあります。このような場合は、不可抗力による休業となり、使用者に責任はないので休業手当を支払う必要はありません。
会社に労災保険支給の取消訴訟を起こす資格なし(3)
会社が労災の支給決定の取り消しを求めた本件に対し、最高裁判所は事業主は労災支給処分によって法律上保護された利益を侵害された「法律上の利益を有する者」に当たらないとして、訴訟を起こす資格である「原告適格」を有しないと判断しました。
「労働保険料の額は申告または保険料認定処分のときに決定することができれば足り、労災支給処分によってその基礎となる法律関係を確定しておくべき必要性は見出し難い」と述べ、「労災保険給付のうち客観的に支給要件を満たさない額は、事業主の納付すべき労働保険料の額を決定する際の基礎とはならない」としています。