定期健康診断の未受診者への対応について

 会社には、使用者として労働者に対して、安全で、かつ、健康な状態で働かせなければならないとする「安全配慮義務」があります。したがって、会社はたとえ労働者が1人であっても、労働安全衛生法に基づき、1年以内ごとに1回(危険または有害業務、深夜業については6か月以内に1回)、定期的に、その使用する従業員に対して健康診断を実施しなければなりません(安衛法第66条、則第44条)。

 この定期健康診断の実施によって、自覚症状の有無にかかわらず定期的に労働者の健康状態を確認し、体に異常が無いか、病気の兆候が無いかを法定診断事項に基づいて把握することができ、なおかつ仕事に対しての配慮もできることになります。労働者に定期健康診断を受診させていない会社に対しては、50万円以下の罰金が科せられることになります(同法第120条)。

 なお、「定期」とは、毎年同じ時期に行うということです。原則として、前回の受診からの間隔が1年を超えないようにしなければなりません。従業員が1年以内ごとに1回の定期健康診断を受診せずに、会社もそのことを放置(黙認)していて、万が一、過重労働等が原因で従業員が病気を発症したり、病状が悪化したりすると、会社は安全配慮義務を怠っていたと判断されてしまいかねません。訴訟に至った場合には、不法行為責任を問われて損害賠償を請求されることにもなりえます。

 したがって、会社としては、仕事が忙しいなどの理由で受診しない労働者をそのまま放置するのではなく、受診義務があることを説明し、前回の受診から1年以内に受診させなければなりません。

 労働安全衛生法では労働者に対しても、使用者の実施する健康診断を受診する義務を課しています(同法第66条5項)。違反したとして労働者本人には特段の罰則はありませんが、会社は使用者として定期健康診断を受診しない労働者に対して、定期券診断の受診命令に違反したとして、懲戒処分を行うことができます。

 受診は業務命令の一つでもあります。したがって、正当な理由もなく受診しないことについて、なんらかの処分もせずに放置していると、他の従業員も影響を受けて健康診断を受診しない者がさらに出てくる可能性もありますので、このような厳しい処分も必要と言えます。

 なお、懲戒処分を検討する場合は、就業規則に定期健康診断の譴責や戒告、重ければ減給とする例もありますが、処分を科すことによって会社としてやるべき措置は講じていたということにもなります。

 また会社は、会社は、定期健康診断を受けて、診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に関して、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければならない義務が課せられています(同法第66条の4)。そしてその必要性が認められるときは、その労働者の実情を考慮しながら、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずる必要があるほか、作業環境測定の実施、その他の適切な措置を講じなければならないとされています(同法第66条の5)。

 

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