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津波警報等があり避難させた場合の労働時間はどうなる?(2)
津波等があり従業員を避難させた場合に、どの時点までを労働時間とするかの判断に明確な決まりがなく判断が難しいことに触れましたが、その詳細について見ていきましょう。
前回挙げた解釈①「会社を出た時点までが労働時間であり、避難事由が解除された後に業務に復帰した場合は、会社に戻った時点で労働時間が再開される。」は、会社側は津波警報の発令などを受け従業員に避難を指示し、それをもって安全配慮義務を果たしたと考えています。避難行動を指示し会社を出た時点で指揮命令下から離れ、実際の避難行動は従業員それぞれに任せているというイメージです。前回挙げた3つの解釈の中では果たした安全配慮義務が最も少なく、労働時間も少なくなっています。
解釈➁「避難場所に到着するまでが労働時間であり、避難事由が解除された後に業務に復帰した場合は、避難場所を出発した時点で労働時間が再開される。」は、会社が従業員を安全な場所まで避難させたことをもって安全配慮義務を果たしたと考えています。例えば会社の用意した車両などで従業員をまとめて安全な場所に避難させ、避難所では自由行動としていた場合が想定されます。解釈①に比べてかなり安全配慮への関与が見られ、それに伴って労働時間も長くなっています。
解釈③「避難場所にいた時間も含めてすべて労働時間とする。」は避難所での時間も含めて会社側の果たすべき安全配慮義務と考えています。最も安全配慮義務を果たしていますが、労働時間も最も長くなっています。
ここまで見てきたように、単純にここまでが労働時間と定めることはできませんので、避難行動の実態に合わせて労働時間を算出するのがよいでしょう。
津波警報等があり避難させた場合の労働時間はどうなる?
先日、ロシアで起きた地震により多くの地域で津波警報が発令されました。警報の発令を受け、業務を中断し従業員の方を安全な場所まで避難するように指示した会社も少なくないかと思われます。災害等に備えて業務時間中に避難行動をとった場合の労働時間はどのように扱われるのでしょうか。
基本的に労働時間とは会社の指揮命令下にある時間のことを言います。会社が避難を指示した場合、その避難行動のどの時点までが指揮命令下にあるか判断は容易ではなく、どこまでを業務時間とするかについて、明確な定めはありません。会社が取るべき安全配慮義務と避難行動に対する指示の度合いによって業務時間となるか否かを判断することになります。具体的には主に以下のケースが考えられます。
解釈① 会社を出た時点までが労働時間であり、避難事由が解除された後に業務に復帰した場合は、会社に戻った時点で労働時間が再開される。
解釈➁ 避難場所に到着するまでが労働時間であり、避難事由が解除された後に業務に復帰した場合は、避難場所を出発した時点で労働時間が再開される。
解釈③ 避難場所にいた時間も含めてすべて労働時間とする。
どこまでを労働時間とすべきかの違いについて、次回確認していきたいと思います。
「静かな退職」という働き方
最近、「静かな退職」が話題になっています。これは、会社を辞めることはしないものの、仕事に対する熱意はなく、必要最低限の仕事を淡々とこなす働き方のことです。アメリカのあるキャリアコーチが提唱したことをきっかけに、欧米でこの概念が広まって日本でも注目されるようになりました。
こうした状況のもと、就職情報サイトの運営等を手掛けるマイナビが「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」を実施したところ、「静かな退職をしている」と答えた人の割合は44.5%に上がりました。さらに、この「静かな退職をしている」人に「静かな退職で得られたものがあるか」と尋ねたところ、54.7%の人が「得られたものがある」と回答。その内容は、「休日や労働時間、自分の時間への満足感」(23.0%)が最多で、次いで「仕事量に対する給与額への満足感」(13.3%)、「職場内の良好な人間関係」(12.7%)の順で続いています。
調査では、コストパフォーマンス重視やもともと昇進を求めない価値観の人がいる一方で、仕事内容や職場環境の不一致、評価・処遇への不満などが要因で、不本意ながら「静かな退職」を選択している人がいると分析。そのうえで、少しでも不本意ながら「静かな退職」をする人を生み出さないよう、企業には働き方の工夫や制度改革が求められるだろう、とまとめています。
会社都合退職と離職票の見方(6)
契約内容を変更して週20時間になったことによる資格喪失の際の喪失原因を間違えやすいことには以前触れましたが、有期契約の方の離職の際の離職区分・喪失原因も間違えやすいものになります。契約期間が経過したことによる離職は原則として離職区分が「2A」~「2D」のいずれかになりますが、以下のすべてに該当する場合は離職区分「1A」の解雇として扱われ、喪失原因も「3」の会社都合の退職となります。
①契約の更新が1回以上行われ、さらに計三年以上である
➁当該契約に雇止めの通知がない
③労働者が更新を希望した
上記の条件のすべてに該当する場合は、実質的に無期契約と変わりないにも関わらず、事業主側が一方的に労働契約を終了させたとして解雇に相当すると扱われます。
これまで喪失原因や離職区分についてせつめいしてきましたが、一般的な使われ方の「会社都合の退職」や「自己都合の退職」と、雇用保険や雇用関係の助成金における「会社都合の退職」や「自己都合の退職」が別のものであることを理解できたでしょうか。
離職区分や喪失原因の誤りは助成金の受給や離職者との思わぬトラブルにもつながりかねません。訂正する場合も電子申請での訂正はできず、紙媒体での離職票の訂正が必要となり、本来生じなかった手間が生じることになりますので、退職の理由と雇用保険の離職区分、喪失原因との関係を理解したうえで、適切な手続きするように心がけましょう。
会社都合退職と離職票の見方(5)
離職区分の詳細は次のようになります。
1A…解雇
1B…天災その他やむを得ない理由による解雇
2A 特定雇止めによる離職(雇用期間3年以上雇止め通知あり)
2B 特定雇止めによる離職(雇用期間3年未満等更新明示あり)
2C 特定理由の契約期間満了による離職(雇用期間3年未満等更新明示なし)
2D 契約期間満了による離職
2E 定年、移籍出向
3A 事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職
3B 事業所移転に伴う正当理由のなる自己都合退職
3C 正当な理由のある自己都合退職
(3D 現在は使われていない離職区分)
4D 正当な理由のない自己都合退職
5E 被保険者の責めに帰すべき重大な理由による解雇
上記の離職区分で、喪失原因が「3」になるのは原則として「1A」と「3A」になります。「1A」の場合は例外なく喪失原因は「3」となり、離職区分が「3A」の場合は喪失原因が「2」になることも「3」になることもあります。
会社の手続きした離職理由と離職者の考える離職理由が異なるときは、会社側の記載に基づいて離職区分が判断されます。その後、離職者が離職票に記載されている離職理由が誤っていると思うときは、ハローワークに異議申し立てをして訂正が必要かハローワークの判断するところとなります。
次回間違えやすい離職区分について説明します。
会社都合退職と離職票の見方(4)
会社都合の退職にあたる喪失原因と離職の失業給付の資格に係る離職区分が別であることに前回触れました。
手続きをした離職票の離職区分がどのように扱われたかは、日数や賃金額が記載されている離職票2の右端で確認できます。複数の離職区分にチェックが入っている場合は、その二つの離職区分のどちらに当たるか判断がつかないため、離職者から具体的事情を聞いた後に正式な離職区分が決定されます。
実際のケースでは「2C」又は「2D」の組み合わせと「3C」又は「4D」組み合わせになるかと思います。なお、この組み合わせでどちらが選択されても喪失原因が変更されることはありません。
それでは離職区分について解説していきます。おおまかな区分として、1で始まるのは解雇、2は契約期間の満了、3は正当な理由のある自己都合となります。
1~3はAから始まっていますが、4は4Dの「正当な理由のない自己都合退職」、5は5Eの重責解雇のみとなっています。
離職区分の細かい違いを次回確認していきます。
会社都合退職と離職票の見方(3)
離職区分は喪失原因より細かい離職の理由ごとに「1A」~「5E」に分類されています。「1A」は解雇、「2E」は定年などとなっており、離職区分が「1A」から喪失原因は「3」、「2E」なら喪失原因が「2」などと関連付けられています。
「会社都合で辞めた場合は失業給付がすぐに貰える」などといった記事をご覧になったことがある方もいらっしゃるかと思いますが、失業給付に関わってくるのはこの離職区分になります。本来の会社都合の退職を意味する喪失原因は失業給付については影響しません。
したがって、喪失原因「2」=自己都合退職で離職区分が「3C」=正当な自己都合退職として会社都合で離職した方と同じ内容の失業給付を受けるケースなどが発生します。
会社側にとっての会社都合である喪失原因と、離職者にとっての給付に係る離職区分は別であることを理解しておきましょう。
会社都合退職と離職票の見方(2)
離職票の喪失原因は「1」~「3」の3種類に分類されます。
喪失原因の「1」は離職以外の理由により雇用保険の資格を喪失した場合になります。具体的には被保険者が死亡した場合と在籍出向にあたります。
喪失原因の「2」は喪失原因の「1」と「3」以外のものと定められています。いわゆる自己都合の退職や定年、契約期間の満了による退職などが喪失原因の「2」に該当します。
間違えやすいのは契約内容を変更して週20時間になったことにより資格を喪失した場合です。労働時間が短くなって雇用保険の資格は喪失しますが、離職したわけではないからと喪失原因を「1」とするのは誤りです。雇用保険のルールでは、雇用保険の資格を喪失することを離職と呼んでいますので、事業主の都合によらない離職として喪失原因「2」となります。
そして、喪失原因の「3」が事業主の都合による離職となります。具体的には解雇、退職勧奨に応じた場合等になります。
喪失原因がどのように処理されたかは、手続き後に交付される資格喪失確認通知書の喪失原因の欄に「1」~「3」のいずれかが記載されます。
ここで注意したいのが、離職区分という別の区分が存在することです。この離職区分について、次回確認します。
会社都合退職と離職票の見方
雇用関係の助成金では、会社都合の退職者を出すと支給対象から外れることがあります。このこと自体はご存じの方も多いかと思いますが、この「会社都合の退職」が具体的にどのようなものかがはっきり分からないという方も多いのではないでしょうか。離職証明書の見方などを通して、雇用保険上の「会社都合の退職」がどのようなものかをはっきりさせたいと思います。
まず、助成金の支給要領を確認しましょう。助成金の種類によって多少違いはありますが、おおむねこのように書かれています。
「支給対象者を、支給申請日までに事業主都合で解雇等(退職勧奨を含む。)していないこと。」
「なお、解雇等とは(中略)雇用保険被保険者資格喪失の確認の際に喪失原因が「3」とされるものである」
つまり会社都合、事業主都合などといろいろな呼び方はありますが、正確には「雇用保険の資格喪失の際に、喪失原因が「3」になる退職」のことを会社都合の退職などと呼んでいることになります。
では、この喪失原因とは何かを次回詳しく見ていきます。
休日出勤を命じた社員がその日に年次有給休暇を請求した場合、その請求は有効なのか(2)
次に、年次有給休暇についてですが、年次有給休暇とは「労働日において労働義務を免除するもの」であり、労働者の勤務形態や勤続年数に応じて、一定の日数を与えなければなりません。したがって、労働義務のない所定休日に年次有給休暇を申請する余地はありません。休日出勤を命じられたとはいえ、休日と定められた日はあくまで「休日」であり、「労働日」に代わったとの解釈は成立しないのです。
また、年次有給休暇の発生要件として、全労働日の8割以上出勤していることが求められます。この「8割以上出勤」を判断するときの分母となる「全労働日」とは、労働義務が課せられている所定労働日のことであり、就業規則等で定めた休日を除いた日数のことです。所定休日に労働させた日は含みません。したがって、休日出勤した日は労働日ではないことになります。
以上のことから、会社として休日出勤を命じた日に年次有給休暇の取得請求を受け入れる義務はありません。
業務上必要な休日出勤に係る業務命令に対して正当な理由なくこれに従わない場合であれば、就業規則に照らして懲戒処分の対象とすることができます。ただし、懲戒処分を行う場合には、前述のとおり、会社としての休日出勤命令の妥当性や、労働者が拒否した理由の正当性等を十分に確認したうえで行う必要があります。 休日に働かせるわけですから、休日労働には、通常の残業にも増して、前日のような高度の必要性が要求されます。