お知らせ
助成金の併給について
雇用関係の助成金には様々な種類があります。これらを同時に受けることはできるのでしょうか。
支給要綱に「同一事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない」と定められています。
したがって、併給できない場合があるということになります。
どの行為が同一とみなされるかなど判断に難しい問題もありますので、複数の助成金の申請を検討している場合は厚生労働省のホームページにある「雇用関係助成金の併給調整早見ツール」を使って併給できるか確認しましょう。
代休・振替休日の正しい運用法(2)
今回は混同しがちな代休と振り替え休日について説明します。
代休の取り扱い
「代休」とは休日の労働に対する代償として事後に特定の労働日の労働義務を免除し、休みを与える制度です。休日労働に対して代休を与えた場合が、通常の賃金100%を控除することができ、休日割増賃金分35%以上のみ支払い義務が発生します。代休の付与は労働基準法上の義務はなく、取得期限の制限もありません。
そのため、代休付与を行い割増賃金を支払わない、あるいは割増賃金の支払いはあるが休日が十分に取れないなど、賃金の全額払い違反や長時間労働の温床となる可能性があります。導入する場合は就業規則などに代休を付与する際の条件などを定めて周知しましょう。
振替休日の取り扱い
「振替休日」とは、あらかじめ定められた休日を事前に他の労働日を指定して振り替える制度です。休日の振替となるため、休日割増賃金を支払う必要はありません。ただし、振り替えた休日が週をまたいだ場合や、振替労働をしたことで当該週の実労働時間が週の法定労働時間を超えた場合は、時間外割増賃金の支払いが必要です。
導入の要件は、就業規則などに振替休日の規定を設け、振替が必要な具体的事由を定めて振り返る日を特定し、振替先の日をできるだけ近接した日とすることや、振替は前日までに通知することを明記し、周知することです。
休日の確実な取得に向けて
休日に労働させる場合は休日申請と同時に、事後に代休または事前に振替日を指定するなど、休日を確保できる仕組みを確立することが大切です。取得に期限を設け、同一賃金計算期間内と定めることも有効です。また、業務に繁閑がある場合は、実態に合わせて休日を設定できる変形労働時間制の導入を検討すると良いでしょう。
法定休日が未取得の場合や所定の割増賃金が不払いの場合は、労働基準法違反として同条119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。正しい知識を持って、使用者の責務である「労働時間の適正な把握」に取り組むことが重要です。
代休・振替休日の正しい運用法(1)
休日の考え方
労働基準法では労働者に与えなければならない休日が定められており、これを「法定休日」といいます。法定休日の原則は「少なくとも毎週1日」ですが、例外として、月の起算日を明らかにした上で、繁閑に応じて「4週を通じて4日以上」の変形休日とすることも可能です。
一方、法定休日以外に使用者が任意で定めた休日を「所定休日」といいます。法定休日と所定休日では、割増賃金の取り扱いや法定の割増率が異なります。このため、法定休日の特定は義務付けられていませんが、週休2日制などを採用している場合には、就業規則の休日規定を具体的に定めておくことが望ましいとされています。
休日の労働と割増賃金
法定休日に労働させることを「休日労働」といいます。休日労働を可能とするには36協定を締結した上で労働基準監督署に届け出て、就業規則などに規定し、周知する必要があります。
また、休日労働には休日割増賃金の支払い義務が発生します。割増率は35%以上、深夜労働(原則午後10時から午前5時)に及んだ場合の割増率は60%(35%+25%)以上となっています。なお、休日労働が法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えた場合でも、時間外労働に対する割増賃金は重複して支払う必要はありません。
一方、所定休日の労働は通常の労働時間として換算されるため、休日割増賃金を支払う義務はありません。ただし、所定休日の労働時間が法定労働時間を超えた場合には割増率25%以上の時間外割増賃金を支払う必要があります。
混同しがちな代休と振り替え休日について、次回解説したいと思います。
業務改善助成金(5)
業務改善助成金は賃金の引き上げと設備投資等を行う必要があります。
今回からは設備投資について説明していきます。
対象となる設備投資は原則「生産性向上に資する設備投資等」と定められています。
具体的な設備投資の対象は機械装置等の購入費、外部の専門家へのコンサルティング費用などが挙げられています。
ただし、Q&Aには「生産性の向上や労働能率の増進に資する設備投資等であっても、助成対象外となるものもある」とされており、申請を検討する場合はこれから行う設備投資が女性の対象として認められるか慎重に見極める必要があります。
社会保険適用拡大に伴う配偶者手当の見直し
配偶者手当の現状
「令和5年職種別民間給与実態調査」(人事院)によれば、家族手当制度があり配偶者に支給している事業所の割合は74.5%。そのうち支給にあたり配偶者の収入による制限を設けている企業が87.4%です。その多くは税制や社会保険法上の扶養控除や配偶者控除の上限額である年収103万円、130万円などに設定されており、これらの金額を超えると家族手当の支給も制限されるのが実態です。
その結果、配偶者である自分の年収が103万円を超えると配偶者手当が支給されなくなり、また年収が130万円を超えると相手の健康保険の被扶養者から外され、自分で健康保険に加入しなければなりません。社会保険料の負担が増えて世帯収入が減ってしまうため、就業調整をしてしまうことになります。
これが、「年収の壁」であり、政府は労働力不足の深刻さが増す中、働く意欲のある全ての人が「年収の壁」を意識することなく、その能力を意識することなく、その能力を十分に発揮できる環境整備を図るために「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定。その中で企業に対して廃止を含めた配偶者手当の見直しを進めており、2023年10月20日に「配偶者手当の見直し検討のフローチャート」を公表しました。
配偶者手当の見直し手順
フローチャートによると、その手順は、①賃金制度・人事制度の見直しの検討➡②従業員のニーズを踏まえた案の策定➡③見直し案の決定➡④決定後の新制度の丁寧な説明の4ステップとなっています。
まず、①で他社事例などを参考にしながら自社に適合した案を検討します。それから②でアンケートや各部門からのヒアリングを行い、従業員のニーズを踏まえた自社案を策定します。そして③で従業員に納得してもらえる見直し案を決定。その過程では、労使間で丁寧な話し合いをすること、賃金原資総額の維持(廃止・調整する場合でも賃金原資の総額が変わらないように調整すること)、必要な経過措置を設けることなどを留意点として挙げています。最後に④で見直しの影響を受ける従業員に対して丁寧な説明を行い、従業員の満足度向上につなげるようにすること、としています。
なおフローチャートでは従業員に納得感のある手当見直し案として以下の4つを具体例に挙げています。
手当見直し内容の具体例
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見直しに伴う法的留意点
配偶者手当の見直しは、労働条件の一つである賃金制度の不利益変更ともなります。そのため見直しにあたっては労働契約法第9条・第10条および判例等を踏まえた不利益変更への対応が必要です。配偶者手当の減額や廃止による不利益変更は、従業員の合意がない限り原則として認められません。したがって、前述のステップ②・③・④が重要になります。
見直す場合は「支給対象者の基本給に吸収する」「全社員の基本給等を原資にする」「他の福利厚生制度で代替する」などの対応が必要となります。現在、配偶者手当の支給を受けており、廃止によって不利益を受ける従業員に対しては、段階的に支給額を減額していくなどの経過措置を取り、労働者の不利益を軽減することも検討すべきです。
また、従業員の同意を得ることも必要なため、説明会なども検討し、丁寧かつ慎重に進める必要があります。
業務改善助成金(4)
業務改善助成金の賃金の引き上げについて説明してきましたが、そもそも対象となる事業者はどのような事業者なのでしょうか。
以下の三つの点を満たす事業者が業務改善助成金対象となります。
- 中小事業者であること
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 不交付要件に該当しないこと
今回は②の地域別最低賃金との差額が50円以内であることについて解説したいと思います。
例えば、東京都の令和5年10月の最低賃金は1113円となっています。業務改善助成金の対象となる事業者は、事業場内最低賃金が1163円以下であることが条件です。
この差額50円以内というのは、引き上げ前の金額になりますので、引き上げ後が地域別最低賃金を50円以上上回っても問題ありません。
現在東京で1150円が事業場内最低賃金である事業者が50円引き上げて1200円にした場合、50円コースの申請が可能です。
就業規則と労働契約書の優先順位について
就業規則に定めた所定労働時間と労働者との個別合意のある所定労働時間はどちらが優先となるのでしょう
たとえば就業規則では1日の所定労働時間が7時間30分、労使で合意した個別の労働契約書が8時間でともに法定労働時間内の場合、問題ないのか?
就業規則は、その会社で働く労働者に共通する労働条件を定めており、労働契約書は個々の労働者との労働条件を定めています。就業規則の労働条件と労働契約書の労働条件が異なる場合には、労働者保護の観点から労働者にとって有利な労働条件が有効となります。就業規則が労働契約書より有利なら就業規則に基づくことになり、労働契約書のほうが就業規則より有利なら労働契約書に基づくことになります。
就業規則と労働契約書との関係について、労働契約法では次のように定めています。
- 「労働者および使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者および使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第112条に該当する場合を除き、この限りではない」(第7条)
- 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」(第12条)
つまり①については、就業規則が個別に締結した労働契約の内容を補充することを定めた上でかつ、労働契約で合意した労働条件の部分は就業規則に優先することを定めています。しかし、②では労働契約で合意した労働条件が就業規則よりも労働者にとって不利な場合には、就業規則で定められた労働条件が優先することになります。
したがって、労働者との個別の労働契約で定めた労働条件については、その内容が就業規則で定める労働条件を上回る部分については有効となり、下回る部分については無効となります。無効となった部分は、就業規則で定めた労働条件によることになります。
個別の労働契約で労働条件を定める場合には、法律、労働協約(労働組合と締結した協約)、就業規則との関係(優先順位)を意識しなければなりません。労働契約法では「就業規則が法令又は労働協約に違反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条および第12条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については適用しない」(第13条)と定めています。
したがって、労働条件は、労働基準法、労働契約法等の法律に違反するものであってはならず、また労働協約、就業規則に違反するものであってもなりません。その優先順位は、(法律>労働協約>就業規則>労働契約)となります。労働者と労働契約を締結するにあたっては、この優先順位を理解して無効となるような労働条件で締結しないように注意しなければなりません。
業務改善助成金(2)
業務改善助成金の助成対象となる要件として、賃金の引上げがあります。この賃金の引き上げについて今回は解説します。
賃金の引き上げ額によって①30円コース②45円コース③60円コース④90円コースと四つのコースに分かれています。助成額は引き上げ額が大きければ大きいほど、引き上げる人数は7人を上限に多いほど助成額が高くなります。
注意すべきは賃金を引き上げた労働者の数え方です。
対象となる労働者は事業場内最低賃金である労働者もしくは賃金を引き上げた場合に賃金額が追い抜かれる労働者です。
追い抜かれる労働者とは次のような方でしょうか。具体例を挙げて説明します。
Aさん 時給1020円
Bさん 時給1000円(事業場内最低賃金)
Cさん 時給1030円
30円コースを申請しようとBさんの時給(=新しい事業場内最低賃金)を30円上げて1030円にした場合、Aさんは1030円を下回ります。この場合のAさんが追い抜かれる労働者に該当します。
CさんはBさんの新しい時給と同じ1030円ですので、追い抜かれた労働者には該当しません。
では、対象となる可能性のあるAさんはいくら賃金を上げれば助成の対象とされるのかを次回確認していきます。
業務改善助成金(1)
今回から、業務改善助成金について解説していきたいと思います。
業務改善助成金は厚生労働省の行う助成金の一つで事業場内の最も低い時間当たりの賃金を引き上げ、生産性向上に役立つ設備投資等を行う事業主が対象となるものです。
キャリアアップ助成金とは異なり、賃金を上昇させるだけではなく、設備投資も行う必要があるため、注意する点が多くあります。
また、申請は原則2月28日までに行う必要がありますので、それまでに業務改善計画と最低賃金引き上げ計画を作成しなければなりません。
次回以降に計画を策定する際の注意点について触れていこうと思います。
法定四帳簿の指摘事項への対応 労働基準監督署の調査に対応できる「法定四帳簿」の重要性と整備について(2)
前回に続き、法定四帳簿についてになります。
今回はそれぞれの具体的な運用について述べていきます。
労働者名簿の運用
労働者名簿は事業場ごとに、日雇労働者を除くすべての労働者について作成する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入れの年月日、退職の年月日と原因です。記載事項に変更があった場合は遅滞なく訂正しなければなりません。保存期間の起算日は「労働者の死亡日、退職または解雇の日」です。
賃金台帳の運用
賃金台帳は事業場ごとに作成し、賃金の支払いの都度、労働者ごとに遅滞なく記入する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数、基本給および手当額、賃金控除額です。保存期間の起算日は、「最後の記入日」となっています。賃金台帳は一般的な給与明細や源泉徴収簿での代用はできません。源泉徴収簿を兼ねた賃金台帳を使用する場合は、記載事項に記入漏れがないか確認しましょう。また日雇労働者に関しては、賃金台帳は必要ですが、賃金計算期間の記載は不要です。
出勤簿の運用
出勤簿は、労働者の労働時間を把握するための帳簿です。記載事項は、労働者の氏名、出勤日、出勤日ごとの始業および終業時刻、出勤日別の労働時間数と休憩時間数、時間外・休日・深夜の労働時刻と時間数です。
厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、労働時間の把握はタイムカードやICカード、パソコンの使用時間記録などの客観的な記録により把握することが求められています。自己申告制については、適正な時間把握を行うための十分な説明と、実態と申告が乖離する場合の実態調査が義務付けられています。2019年4月以降、客観的な記録による労働時間の把握は、法的義務となっています。高度プロフェッショナル制度対象労働者を除くすべての労働者が対象となっているため留意しましょう。
年次有給休暇管理簿の運用
すべての企業は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者含む)に対し、年5日については、使用者が時期を指定して取得させることが義務付けられています。使用者は、年次有給休暇を与えた時期、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした帳簿を作成し、保存しなければなりません。労働者名簿や賃金台帳と併せて調製することも可能です。